大相撲実況38年・藤井康生が語る、北の富士との秘話
来週から大相撲九州場所が開催されますが、今年は38年ぶりに同じ年に2人横綱が誕生。豊昇龍と大の里の活躍が期待されます。11月3日放送のCBCラジオ『北野誠のズバリ』では、ゲストに元NHKアナウンサーで、『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社)の著者、藤井康生さんが出演しました。藤井さんは大相撲の実況を1984年(昭和59年)から約38年間担当。現在はフリーアナウンサーとして2022年からABEMA大相撲の実況を行ったり、YouTubeチャンネル『藤井康生のうっちゃり大相撲』を開設しています。ここでは、リスナーからの質問に回答する部分を取り上げます。聞き手はパーソナリティの北野誠と大橋麻美子です。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く北の富士さんの解説が楽しみ
リスナーから届いた質問は、次のとおりです。
「大相撲中継で藤井アナウンサーと、ご自分の思いをハッキリおっしゃる北の富士さんの解説が大好きでした。
時にテレビを観ていて北の富士さんの機嫌が良くないような、観ていてこちらが緊張する時もありました。
北の富士さんとの中継解説の中で、特に思い出に残るエピソードはどんなものでしょうか?」(Aさん)
藤井さんは11月に新刊『粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代』(集英社)を上梓される予定ですが、大相撲中継では解説と実況という共演も多かった藤井さんが知る秘話が綴られています。
激しい取組でアクシデント発生
その中からひとつ「さがり」にまつわる話を披露する藤井さん。さがりとはまわしの前に何本か垂れ下がっている飾りの紐のことです。
ある取組の時に激しい突っ張りによって、さがりが土俵下の前から3、4列目の溜席と呼ばれる場所に飛んだことがありました。
実況のため、藤井さんは起こっている様を具体的に話さなければなりません。
藤井さん「突っ張り合いになりました。激しい突っ張り合い、土俵の中央、まだ2人が激しい突っ張り合いを演じています。
あっと今、さがりが飛びました。向こう正面の土俵下、前から3列目4列目、さがりが飛んだ!まだしかし、土俵上は突っ張り合いだ。
ようやく右四つになった。寄った!寄り切り〇〇の勝ち」
その後、落ちたさがりはお客さんが一人ひとりリレーのように手渡していき、白房下まで戻ってきたのですが、その一部始終も藤井さんは実況したのです。
「残念」というコメントに凍りつき
その様子を見た北の富士さんは「いやあ、残念だね」とコメント。
藤井さんは何かまずいことを言ってしまったのかと思い、どういうことか尋ねたところ、北の富士さんはこう語ったそうです。
「さがりが飛んでくるなんて珍しいでしょう。宝くじが当たるよりも珍しいよ。
年間90日間同じ席にお客さんが座っていたとしても、絶対飛んでくることはないよ。
俺が『残念だ』と言ったのは、さがりが飛んできたら普通に返すんじゃなくて、財布をぱっと開いて1万円札を出して、キュッとさがりに結びつけて渡していくんだよ。
そうすると隣のお客さんも『そういう風習があるのか』と思って、あわてて財布を開くでしょう。負けた力士が、さがりが戻ってきた時に10万円ぐらい結びつかれている。それが粋というもんでしょう」
さがりが戻ってきた後も、北の富士さんのご祝儀話は続いたそうです。
豪快なご祝儀話
かつては力士が花道に下がっていく際に、花道の近くにいるお客さんが、汗をかいた力士の背中にお札を貼っていたそうです。
このエピソードを知っていた藤井さんが話を向けると、北の富士さんは「よく知ってるねえ」と言いながら話を続けました。
「昭和40年代の後半、俺なんか大した横綱でもなかったけど、下がっていく時に特に巡業になるとおこづかいを貯めたお客さんが集まってきて、お札をペタペタ貼っていくんだよ。
俺なんか晩年は全然稽古や準備運動もしなくて、支度部屋に入ると花札かなんかやってて。
付け人が『そろそろ出番です』って言ってくれると、『じゃ行こうか』って言って花道の奥に出て、そこで霧吹きで体中に吹いてくれる。
花道に入っていくと、周りのお客さんが『北の富士、結構気合が入ってる!汗びっしょりじゃないの』っていう声を耳にするのが気持ちいい」
背中だけではなくあちこちお札を貼ってもらったそうですが、貼るところがなくなると、お腹を引っ込めてまわしとお腹の中に突き刺してもらったそうです。
…という話を取組と取組の間にしていたそうで、昭和らしい豪快な話ですね。
(岡本)
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