倉本聰さんに捧げる言葉~名作『北の国から』以外の愛すべきドラマと作品たち

富良野は冬へ歩んでいる。そんな中、脚本家・倉本聰さんの「お別れの会」が、ゆかりの劇場で開かれた。2026年(令和8年)11月3日のことである。
書棚には沢山の財産

大好きな脚本家だった。筆者の自室の書棚には、倉本さんによるシナリオ本やエッセイ集など50冊ほどが並んでいる。ドラマや映画の映像を楽しみ、それを文字でも味わってきた。2026年9月に、91歳での訃報に接した時は、ついに別れの日が来てしまったことを噛みしめると共に、これからは新たな作品に触れることができなくなる寂寥感が訪れた。倉本さんと言えば、1981年(昭和56年)からのテレビドラマ『北の国から』が真っ先に挙がるが、お別れに際して、それ以外の作品について綴りたい。
『勝海舟』から北海道へ
NHK大河ドラマ『勝海舟』に出合ったのは、中学生の時代だった。歴史上で最も好きな勝海舟という幕末の人物が描かれた作品だったが、放送期間の途中で主役が交代するという波乱が起きた。勝麟太郎役の渡哲也さんが体調を崩し、松方弘樹さんが代役として起用された。交代したのは主役だけではなく、脚本家もであったことを認識したのは、時が少し経ってからのことだった。制作スタッフとの行き違いから、脚本を担当していた倉本さんは仕事を降りてしまう。本人いわく“逃げた”先が北海道だった。やがて富良野への移住を決めた。この『勝海舟』降板がなければ、おそらく『北の国から』は生まれなかっただろう。それこそがまさに運命の“ドラマ”である。
『ガラスの知恵の輪』を探して
『ガラスの知恵の輪』というドラマは、心に残る作品だった。1982年(昭和57年)に全6回で放送された連続ドラマだった。主役のサンドイッチマンを演じたのは萩原健一さん、「ショーケン」と呼ばれてグループサウンズで大人気のボーカルだったが、『勝海舟』で“人斬り”岡田以蔵を演じて、強烈な印象を残していた。大竹しのぶさん演じる若い女優との不思議な触れ合いが、ドラマの軸だった。グレン・ミラー・オーケストラが演奏する『ムーンライト・セレナーデ』が効果的に使われていた。舞台のひとつが北海道の小樽市で、筆者は初めて小樽を訪れた時、ガラス工芸店を訪ね歩き、「ガラスの知恵の輪」なるものを探した。残念ながら見つからず、そんなドラマのことを知る店の人にも会えなかった。
『昨日、悲別で』の故郷愛

倉本作品で最も好きなテレビドラマは『昨日、悲別で』である。1984年(昭和59年)の連続ドラマで、北海道にある架空の“炭鉱の町”悲別(かなしべつ)が舞台だった。天宮良さん、布施博さん、そして梨本謙次郎さんを“悲別3人衆”として売り出したドラマでもある。天宮さんの主人公「竜」こと「中込竜一」、その母親を五月みどりさんが演じる。母は東京にいる息子に手紙を書く。「きのう悲別でキツネが轢かれた」「きのう悲別で飯屋がつぶれた」。そんな故郷からの手紙を疎んじながらも「悲別」への思いを捨てきれない主人公と、「悲別」に暮らす人々の物語。母子愛、友情、恋愛、そして故郷愛があふれる珠玉のドラマだった。伊勢正三さんの名曲『22才の別れ』がエンディングテーマ曲として、ドラマを盛り上げた。
至極のエッセイたちに魅了

倉本さんは数々のエッセイも遺した。初めてのエッセイ『さらば、テレビジョン』(冬樹社:1978年)は、自らが関わるテレビ界や芸能界のことを、実に痛快に“斬って”いた。厳しくもあり、しかし、そこには確かなテレビへの愛があった。『いつも音楽があった』(文藝春秋:1984年)は、自分の人生の思い出を、数々の歌と共に描いたユニークな自伝的エッセイだった。いつか自分も、こういう文章を書きたいと心底思った。数多くの脚本でも魅了されたが、倉本さんのエッセイは大好きで、ほぼ全冊を読んできた。
『ニングル』からの教訓

『ニングル』(理論社:1985年)は、衝撃的な作品だった。舞台は北海道であり、現実とも夢とも取ることができる、“森の妖精”ニングルの物語である。この本の中に出てくる言葉は、一読した時から深く胸に刻まれた。「知らん権利」と「放っとく義務」である。この2つの言葉によって、人間関係の“妙”と“深み”をえぐっていた。
「何もしらなきゃ傷つかんですむ」
「他人が何をしようと余計な口出しはせん方がいい」
人と人との“距離感”を考えるようになった、そんなきっかけとなった大切な本である。
別れはいつか訪れる。それをしっかりと受け止めることも、倉本作品から学んだことだった。だから、淋しいけれど泣きはしない。「倉本聰」が折々に残してくれた数々の作品たちを噛みしめ直すことによって、歩むべき時代の“何か”が見えてくるように思う。それは“北の国から”の羅針盤なのかもしれない。
【東西南北論説風(734) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】









