竹内まりや11年ぶりの全国ツアー完走!山下達郎との夫婦セッションも極上の味

「おわり(尾張)名古屋なのですが、全国ツアーは名古屋から始まります」。こんなジョークから竹内まりやさん11年ぶりの全国ツアーは始まった。最新アルバム『Precious Days』に付いていたライブの抽選券が見事に当選、2025年(令和7年)4月15日、たった一夜だけの名古屋公演に駆けつけた。
港にあるライブ会場へ
会場となった名古屋港金城ふ頭にある「ポートメッセなごや」は、開演前から興奮に包まれていた。名古屋駅からの「あおなみ線」を終点で下車して目にしたものは、入場を待つ長蛇の列だった。駅から会場へ直接進むと、混雑がさばき切れないため、駐車場の敷地を蛇行しなければならない。まさに“蛇”のように。しかし、その先に待っているのは、久しぶりのステージへの期待と興奮である。列に並ぶ観客の年代層は高いが、皆、喜びを隠し切れない表情だった。筆者も、2014年(平成26年)の武道館で観て以来の竹内まりやさんのステージに、気持ちの高ぶりを感じる。でも、ふ頭に吹く春風はまだ寒かった。
「開演のベル待ち焦がれている」
注目の1曲目は、やはりこの曲『アンフィシアターの夜』だった。「今夜もお客は満ぱい、開演のベル待ち焦がれてる」という歌詞は、まさに最初の曲は“コレしかない”。客席は立ち上がるかと思ったが、席についたままの手拍子だった。2曲目には、ドラマ主題歌にもなった『家に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)』が続く。そして3曲目は、根強い人気の『マージービートで唄わせて』。ザ・ビートルズに憧れた自分の若き日々を歌った、まりやさん至極の名曲である。ステージ背景のスクリーンに映し出されるロンドンの街などイギリスの写真が、歌唱を強く印象づける。この3曲は、前回の全国ツアーと同じラインナップだった。
山下達郎“バンド”の贅沢さ

竹内まりやさんのライブの魅力のひとつは、そのバックバンドである。バンドマスターは、夫である山下達郎さん。その達郎さんが自らのステージとも重ねて選び抜いたミュージシャンが揃っている。誰もが一線級の“つわもの”であり、個人でも音楽活動をしながら、このツアーに集結しているのだ。かつてまりやさんは「私のステージには、漏れなく山下達郎が付いてきます」と舞台で笑いを取っていたが、これだけの面子が奏でる音楽は、文句なく素晴らしい。そこにまりやさんの歌声が乗る。実に贅沢なステージなのである。
「45」「50」「70」の意味
ステージで紹介された3つの数字がある。まず「45」。名古屋でのコンサートは、実に45年ぶりだそうだ。4年前に企画されたのだが、新型コロナ禍によって中止。「45年ぶりの名古屋公演」という紹介に、どよめく会場だった。次に「50」。達郎さんが、まもなくデビュー50周年を迎える。バンド「シュガー・ベイブ」から始まったプロ人生、そこでの出会いと結婚を語る妻のトークに、ほのぼのとした空気が流れる。最後は「70」。3月20日に70歳を迎えたことを淡々と語るまりやさんに、あらためて驚きのざわめきが広がった。古希のシンガーによる歌唱、そしてパフォーマンスの力強さに、感動である。
懐かしい名曲のセトリ

セットリストは、最新アルバムからの披露が多いかと予想したが、そうではなかった。生田絵梨花さんと歌でも共演した『歌を贈ろう』の他は、アルバムにこだわることなく、デビューから歌い続けるお馴染みの曲が多かった。ファンの期待に応える選曲だった。
達郎さんやコーラスチームとアカペラで披露した『リンダ』は斬新だった。『カムフラージュ』は、木村拓哉さん主演のドラマ『眠れぬ森』の主題歌で大好きな1曲だが、ヒロインをつとめた中山美穂さんが先年に亡くなっただけに、そんな思い出も語られた。
そして『プラスティック・ラヴ』。まりやさんの作詞作曲なのだが、夫の達郎さんも気に入って、自らも歌っている曲。恒例の夫婦共演は見事で、サビを歌った達郎さんの声に、背筋がぞくぞくとした。お見事だった。
“人生の扉”が開いた夜
50歳の時に作った『人生の扉』は、素晴らしい楽曲である。満開の桜を見た時に、あと何回この美しい桜を見ることができるのだろうか、と思い、その気持ちを歌にした。今回のステージでも、クライマックスに歌われた。70歳を迎えた竹内まりやさんが思いを込めて歌う20年前の自作曲。「自分が作った歌に、励まされることがあることを知った」という語りが、彼女の歩みを物語る。
「信じられない速さで 時は過ぎ去ると 知ってしまったら どんな小さなことも 覚えていたいと 心が言ったよ」
胸に染み入る歌詞である。そして、この歌の時だけ、スクリーンには歌詞が映し出されたのだった。
何度も何度も、ファンに感謝の言葉を繰り返したまりやさん。きっと彼女は、また次の“人生の扉”を開ける。そして、この夜に会場に集ったひとりひとりも同じだろう。生きていることは素敵なことだなあ、と幸せな心をお土産に、金城ふ頭のライブ会場を後にした。寒かった春の風は、いつの間にか暖かく変わって優しかった。
【東西南北論説風(589) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】