30年ぶりのヨーロッパ、“ユーロに弱い円の国”からの旅行者よもやま話

実に30年ぶりにヨーロッパ4か国を訪れた。大学時代にリュック1つを背負って生まれて初めての海外旅行で出かけたヨーロッパには、その後、個人旅行したり、担当していた自治体首長に同行取材したり、また、ニュース特派員としても3年間暮らした経験もある。それでも、今回30年間という歳月が空いてしまった。2025年(令和7年)初夏のヨーロッパ、印象に残ったことの備忘録である。「そんなことはとっくに知っている」という方も多いと思うけれど、どうかご容赦いただきたい。
あまりに長い飛行時間
ヨーロッパがこんなに遠いなんて。今回はエミレーツ航空を利用した。関西国際空港からドバイまでが、およそ10時間。トランジット時間を経て、ドバイから最初の到着地であるウィーンまでが6時間。長かった。カレンダーも1日過ぎている、翌日の到着だ。ウクライナ紛争が始まって、ロシア上空を飛ばずに、北か南かへ迂回するルートを取るためだ。かつて、朝に日本を出発すれば、時差の関係で、同じ日の夕方にはヨーロッパへ着いていた時代が今は昔である。平和の有難さを、こんな形でも痛感する。
伝統のチップは姿を消す?
今回の旅で最も驚いたことは、チップの存在である。ほとんど消滅していた。飲食店などは、会計の中に「サービス料」がきちんと込められている。以前はその上で、さらにテーブルにチップを残したが、今はそんな客はほとんどいない。タクシーの運転手が、スーツケースを運んでくれた際には、ユーロコインを渡したが、チップはせいぜいそれくらいだった。「枕銭(まくらせん)」と呼ばれ、部屋を掃除してくれるホテルスタッフのために、ベッド上やサイドテーブルに小銭を置く慣習。今回は、ローマでもジュネーブでも受け取られることなく、夕方に部屋に戻るとそのまま残されていた。
カード社会ますます

「現金をユーロに換金する必要はほとんどない」と、旅立つ前に、旅行会社の担当者からアドバイスを受けた。それでも「やはり現金は大切」と、出国前にある程度ユーロの現金に換えていったのだが、本当に必要なかった。行動に関わるほとんどがカード決済である。パリのモンマルトルの丘、テルトル広場では大勢の画家たちが屋外に自分の作品を並べて販売しているが、そこでも「カード使えます」と多くの画家が掲示していた。驚いた。スリなどの犯罪への被害軽減のためにも、ますます現金の姿は少なくなりそうだ。
人気の観光施設は予約制

変わっていなかったのは、観光施設へ入る人の行列である。とにかく大混雑だった。もう45年も前になるが、パリで巨大ステンドグラスが有名なサント・シャペル教会に入る、長い列に驚いた記憶がある。加速しているのが“時間予約制”である。パリのルーブル美術館はじめ、バチカン美術館など主要な美術館や博物館、火災からの復興が続くノートルダム大聖堂なども予約制が導入されている。もちろん予約なしでも入ることができるのだが、入場の列は、チケットの有無によって2種類に分かれている。スマホでチケットを提示して入る人の多いこと多いこと。筆者もバチカンのサンピエトロ大聖堂とバチカン美術館だけは、日本で事前予約していったが、それでも列に並んで長い時間待つことになった。
ペットボトルの新工夫

身近なところでは、ペットボトルのキャップに驚いた。栓をひねってボトルを開けても、キャップはそのまま、ボトルに付いているという仕組みになっている。キャップは離れずに、また栓ができる。これだとキャップを落としてしまうこともない。それでいて、きちんと90度に折れるので、水が飲みにくいわけでもない。いずれ日本にも広く導入されるかもしれない。半世紀ほど前に米国で開発されたペットボトルも、進化していることを知った。
地図と翻訳、役立つアプリ
今回の旅行中、最も役に立ったのは、ポケットサイズのWi-Fiルーターだった。レンタルサービスによって常に持ち歩いたが、これによってスマートフォンでの地図アプリと翻訳アプリを使うことができた。地図アプリは、海外の町でも日本語表示で道案内してくれる。翻訳アプリは、レストランのメニュー表を撮影すれば、即座に日本語に訳してくれる。紙の地図を片手に、道を訪ねながら歩いた旅のスタイルが大きく変わったことを、あらためて体感した。
ニッポンの存在とは?

各国で何となく感じたことは、日本という国の存在感の薄さだった。かつては「経済大国」と呼ばれ、その買い物ぶりは、一部では現地の批判を受けながらも、それなりに“元気な国”という印象はあった。街には日本製の乗用車やバイクが次々と走っていた。ジュネーブのレマン湖畔には、日本企業名の看板も複数見られた。ところが、そんな風景も少なく、また新型コロナ禍の後遺症や長引く円安もあってか、日本人旅行客の姿も決して多くなかった。日本の国力が落ちていなければいいのだが、と気になった。
それにしても、ユーロに対する円の弱さには驚いた。訪れたスイスはEUに加盟しておらず、ジュネーブではスイスフランなのだが、ユーロ以上のレートである。円安が続く中、カード会社からの請求書に、気が重い帰国後の日々を送っているのは、楽しかった旅の“代償”でもある。
【東西南北論説風(588) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】