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ドラゴンズ秋季キャンプ終わる・イチローも味わった“不安”に打ち勝ったのは誰?

ドラゴンズ秋季キャンプ終わる・イチローも味わった“不安”に打ち勝ったのは誰?

中日ドラゴンズの秋季キャンプが終わった。
沖縄・北谷球場とナゴヤ球場、それぞれから連日伝えられたキャンプ便りに、ファンは「来季こそ昇竜復活を!」と雪辱を期待した。クライマックスシリーズにも日本シリーズにも出場できなかった秋、ここ数年ずっと続く早すぎるシーズンオフである。

イチロー選手が語った「激闘」

手元にある一冊の本には、ひとりの野球選手の戦いの日々が刻まれている。
『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』(石田雄太著・文藝春秋・2019年)。19年間にわたってメジャーでプレーしたイチロー選手を長期間取材し、その言葉を積み重ねた一冊である。
各ページからはイチローさんの、まさに“生(なま)の姿”がほとばしっている。タイトル通り「激闘の軌跡」なのだが、読了して思うのは「激闘」よりも「苦闘」、イチロー選手がバッティングというものに対し、こんなにも苦しみ、こんなにも真摯に向かい合ってきたのかとあらためて驚かされる。そして感動する。

「野球は難しい」と語ったイチロー

「僕って野球、ヘタですかねえ」とイチロー選手は筆者に問いかける。メジャーに渡って10年連続で200本を超す安打を積み重ねつつある最中、その6年目2006年の夏のことだ。
「カベなんて目の前に現れて欲しくない。逃げ出したいし、球場に行くことも憂鬱になるし・・・野球ってこんなに難しかったのかと心底思いました」
※石田雄太『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』(文藝春秋・2019年)

メジャーでの1年目に、首位打者・盗塁王・新人王そしてシーズンMVPまで獲った選手である。84年間、誰も破ることができなかった米大リーグのシーズン最多安打を5本更新する262の安打を放った選手である。メジャー通算3089安打、そして日米通算4367安打を積み重ねた選手である。その選手がシーズン毎に「打てるのか」という不安に苛まれる。打席での立ち位置について「ベースからの距離がちょっと近いよね」という弓子夫人のさりげないひと言までもヒントにしてスランプからの脱出を図る。
イチローさんの数々の言葉、これでもかこれでもかと「バッティング」の奥深さ、そしてその野球道を歩く打者の“修羅の心”が読む者に突き刺さる。

王貞治さん「練習するしかない」

同じ著に、イチローさんが敬愛する王貞治さんの言葉がある。王さんも毎年、開幕前には恐怖と戦ってきたと語る。
「もう打てないんじゃないかという恐怖は、常についてまわるんです。結果を残してきた人ほど不安と戦ってきたはずだし、恐怖心を持っていない人は本物じゃない。その怖さを打ち消したいがために、練習するわけです」
※石田雄太『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』(文藝春秋・2019年)

ホームラン868本の世界記録を持つ“世界のホームラン王”が「怖い」と語る。そしてそれから脱け出す方法がただ一つあり、それが「練習」なのだと語る。重い言葉である。

与田監督のキャンプ総括

1か月以上に及んだ秋季キャンプを「選手が歯を食いしばってついてきた」と与田剛監督は総括した。イチローさんが、そして王貞治さんが現役時代に味わってきた“怖れ”。自分の技術、そして成績に対する不安。ドラゴンズの選手たちもそれに打ち勝つための練習ができたと信じたい。
与田監督はこう続けた。「来年、結果を出してこそ、いい成果と言える」。
まさに指揮官の言う通りである。

出でよ!新たなレギュラー選手

7年連続Bクラスと球団の歴史でも最も長い低迷が続くドラゴンズだが、与田監督が新たに率いた2019年は、攻撃面も守備面も成績は前年より大きく向上した。借金の数も15から5へと大きく減った。しかし、順位は前年と同じ5位だった。
打撃オーダーを見てみると、セカンドのレギュラーに定着した阿部寿樹選手以外、実は前年とほとんど同じ顔ぶれなのである。かつて2004年から指揮をとった落合博満監督は「今の戦力が10%ずつ力をアップすれば勝てる」と宣言し、言葉通りの優勝を勝ち取ったが、あの時のチームは現状2位だった。5位からの飛躍は現在のレギュラー選手それぞれの成績が10%向上したぐらいでは、Aクラスはともかく、優勝には手が届かないだろう。この顔ぶれの中にはいない新しい戦力が台頭しての“チーム内の下克上”が必需である。レギュラーを狙う選手たちもやはり「練習」しかないのである。

ユニホームを脱いでのシーズンオフが始まる。でもそれは2020年シーズンの開幕でもある。8年ぶりのAクラス、そして9年ぶりの優勝を狙うチームにシーズンオフがあろうはずがない。キャンプインの2月1日、再びユニホームに袖を通す日まで、「激闘」いや「苦闘」の日々を送ってほしい。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

<引用>石田雄太『イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡 2000-2019』(文藝春秋・2019年)

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