井上野球とは何だったのか?竜の本拠地最終戦スタンドでふり返る失望の日々
バンテリンドーム5階のパノラマ席に座る。2026年(令和8年)9月21日「敬老の日」のデーゲーム、今季の本拠地最終戦である。応援するファンにとっても、つらく苦しいシーズンだった。(敬称略)
地下鉄車内のファン会話

名古屋市営地下鉄「ナゴヤドーム前矢田」駅に向かう車内で、目の前に立つ年配男性2人の会話が耳に入ってきた。ひとりは肩からドアラのバッグを下げている。竜党なのだ。
「まいったなあ、今年は連勝すると、それ以上の連敗だったからなあ」
「ホームランでしか点が入らないよね」
「細川も昨日2本打ったけれど、シーズン通して打ってほしいよね」
「井上(一樹監督)は、今日どんな挨拶をするのかなあ。辞めるって言うかなあ」
チケットにお金をかけて、時間もかけて球場へ足を運ぶ。ファンの声はストレートだ。
カープ相手に“有終の美”

この日の広島東洋カープとの試合は、これが開幕から低迷してきたチームかと疑うほどの内容だった。初回に石川昂弥と花田旭の連続タイムリーで2点を先制し、球場のボルテージは一気に上がった。今季ショートのレギュラーに定着した村松開人の2点2ベース、さらにソロホームランまで飛び出した。投げては高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)が圧巻の投球を見せた。終わってみれば10対0で完勝だった。本拠地ラストゲームは文字通り“有終の美”を飾った。
今季の映像にヤジが飛ぶ

しかし、試合後の最終戦セレモニーは異様な空気に包まれた。毎年このセレモニーをスタンドから見守ってきたが、今年は明らかに様相が違っていた。
「そんなもん、見たくない!」
冒頭で今季の戦いを振り返るダイジェスト映像が大型ビジョンで流されたが、それを紹介する場内アナウンスの直後に、スタンドからヤジが飛んだ。
映し出された映像は、村松のサヨナラ3ランや涌井秀章の22年連続勝利、さらに阿部寿樹の代打での決勝打など、まるで優勝かAクラスかのような眩しいシーンばかりだった。ただ、そこに映し出されなかった映像にこそ、今季の井上竜の“真実”があることを、スタンドの誰もが知っていた。
負け方のオンパレード
球団創設90周年という節目のシーズン、讀賣ジャイアンツも90周年でリーグ優勝、阪神タイガースも90周年でリーグ優勝、しかし中日ドラゴンズは後に続くことはできなかった。開幕戦でのまさかの逆転負けから始まったペナントレースでは、10点のリードを逆転されたり、終盤に満塁ホームランで追い越しながらも負けたり、まさに“負け方のオンパレード”状態だった。
巨人には度々の屈辱
特にジャイアンツ相手には、1イニングで10点を奪われたこともあった。つい先日は大量14得点で惨敗した。かつての同僚だった小笠原慎之介には日本球界復帰最初の勝利を提供し、ライデル・マルティネスの250セーブ達成の引き立て役にもなった。今季も10勝15敗と負け越して、今や「宿敵」と呼ぶことさえもおこがましいが、ジャイアンツ相手に負けることは、竜党として本当に悔しい。ふと、故・星野仙一さんの顔が浮かんだ。この“燃える男”は巨人を相手にすると、さらに闘志があふれたものだった。
逆転負け38試合のショック
38試合を数える逆転負けが痛すぎる。チームにとってはもちろんだろうが、応援するファンにとっては、38回も失望のため息をついたことになる。長いペナントレースでは、逆転負けもある。しかし、その数が多すぎた。サヨナラ負けの数も11回と、これも多い。両リーグ最多である(成績は9月23日現在)。大型スクリーンでは、むしろそんな屈辱の場面を紹介した方が、今後の励みになるのでは、と自虐的な思いすら胸に去来した。
井上野球とは何なのか?

井上一樹監督の挨拶では、声援に混じって、かつてないほどのヤジと怒号がスタンドから飛び交った。ビジョンに映し出された井上監督の表情は厳しかった。
挨拶の中で「ドラゴンズプライド」という言葉が出てきた。それは一体何なのだろうか?ここへ来て唐突に登場した言葉に驚く。チームを率いた井上監督は、そのプライドのためにどんな野球をやりたかったのだろう。この2年間、それを見せてもらっていない気がする。「どらポジ」「ドラあげ」と“ポジティブ”をアピールしたスローガンは掲げられてきたが、その采配は必ずしもそうではなかったようにも思う。井上野球とは一体何だったのか?
セレモニーの締めくくりは、監督、コーチ、そして選手による場内一周である。ここ毎年と同じように、ひと足早く席を立った。グラウンドを回るのはペナントを手にした時だけでいい。中日ドラゴンズは球団として、来季に向けてどのように出直すのか。失望の蓄積と最終戦での勝利を見た喜びを胸に、つらすぎた2026年シーズンの応援観戦は終わった。
【東西南北論説風(722) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)ほか。











