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千のマウンドに立って~ドラゴンズ岩瀬仁紀の恐るべき投魂と技~

千のマウンドに立って~ドラゴンズ岩瀬仁紀の恐るべき投魂と技~

マウンドでのその投球を一体幾度見たことだろうか。球場でもそしてテレビの中継でも。それはそうだろう。1999年(平成11年)の開幕戦以来20年間、マウンドに立った回数は実に1000回に及ぶ。ドラゴンズファンはもちろん、プロ野球ファンもそしてそうでない人でも、そのマウンド姿を知っている。岩瀬仁紀、中日ドラゴンズ投手、背番号「13」。プロ野球史上初、前人未到の1000試合登板である。

稀代のストッパー・岩瀬仁紀を語る山に登る道は複数ある。この内の2つの道を選んでその山に登ってみたい。

最初の登山道は歴代最多セーブ数の記録である。
積み重ねたセーブの数は407(9月30日現在)。2位の高津臣吾さん286、3位の佐々木主浩さん252、昨年シーズン最多セーブ54を記録した福岡ソフトバンク・ホークスのデニス・サファテ投手が234で4位。いかに岩瀬投手の積み上げたセーブ数が図抜けているのかが分かる。
それ以上にすごいのが、それに費やした歳月のある意味“短さ”である。岩瀬投手が入団当初の「中継ぎ」役から本格的に「抑え」役に指名されたのは、落合博満監督が指揮を取り始めた2004年(平成16年)シーズンからである。実は中日ドラゴンズ検定の設問にもなったのだが、それまでの5年間にあげたセーブはわずか6しかない。残り400ものセーブは2004年以降の15年間で記録しているのである。現役20年間の4分の3での達成だ。2016年はケガのためセーブなし、この年を除けば毎年平均28セーブをあげていたことになる。
これはあくまでも公式シーズンでのことであり、完全試合を続けていた山井大介投手からバトンを受けて見事に53年ぶりの日本一をマウンドで迎えた2007年の日本シリーズでのセーブなどを加えると、その数はさらに増える。

2つ目の登山道は1000試合に結びついた毎シーズンの登板数である。
ルーキーだった1999年に65試合投げたことから始まり、2013年まで15年間連続で毎年50試合以上の登板を果たした。阪急ブレーブスで活躍した米田哲也投手の最多登板記録949試合を破った時に「先発と抑えは違う」という声も聞かれた。たしかに投げた通算イニングは先発に比べれば歴然と差はあるだろう。しかし抑え投手は登板試合だけが投げたゲームではない。毎日毎日ブルペンで肩を作る。スタンバイしたものの登板が流れることも多々ある。岩瀬投手の登板数の水面下には、こうしたブルペンでの目に見えないピッチングがある。その上に1000という気の遠くなるような試合数が存在しているのだ。

日本プロ野球史上に残る抑え投手だった

1000試合の中には、これもドラゴンズ検定で「岩瀬投手が過去に先発した試合は何試合?」と出題されたのだが、過去に1試合だけ先発したゲームがある。2000年10月8日のシーズン最終戦、見事勝ち投手になっている。
400セーブを記録したゲームはナゴヤドームのスタンドで観戦していた。2014年7月26日、一打同点というピンチを招いたが讀賣ジャイアンツの阿部慎之助選手をマウンドでバランスを崩しながらも討ち取った。
しかしその他、意外なほどに印象に残るゲームが少ないことに気づく。当然のように打者を“抑えて”きたからである。

岩瀬投手は2年連続でセーブ王に輝いたことが2回ある。2005年と2006年、2009年と2010年、いずれも落合政権下で8年間一度もAクラスを譲らなかった黄金期と重なる。岩瀬投手の凄さは、淡々とその役目を全うしてきたことであろう。
日本で抑え投手といえば、「江夏の21球」で知られる江夏豊さんや“ハマの大魔神”と呼ばれた剛球・佐々木主浩さんの名前が真っ先に挙がる。どちらもその強烈な印象からなのだが、岩瀬投手には、この「淡々と」という自然体の強さがある。ゲームを締めくくった瞬間も表情はほとんど変わらない。抑えて当然のように。
後年、抑えに出てきて打たれるケースも増え始めたが、それでも同点まで。逆転を許すことは多くなかったと記憶する。日本プロ野球史上に残る抑え投手だった。

2018年シーズン、ドラゴンズは「抑えの切り札」不在に苦しんだ。そんなシーズンで1000試合登板を達成して岩瀬投手は現役を引退する。1000という数字の重みを同じユニホームを着る選手たちは、どんな思いで受け止めるのだろう。まして同じ「リリーフ」という役割にある投手たちは。
無残な逆転負けを数多く喫した今季のドラゴンズ、防御率12球団最低のチームが「投手王国」復活に向けて、岩瀬仁紀という宝物から学ぶことはあまりに多い。

【東西南北論説風(63) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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