子どもが家庭でつくる庶民的なお菓子名古屋の食文化の中には、よそには知られていない・・・もっと言うと地元でも見過ごされがちな食べ物がまだまだ数々あります。そのひとつが「おこしもの」。「おこしもん」「おしもん」などとも呼ばれます。これは桃の節句=ひなまつりの時期に食べる伝統的なお菓子。米粉をねった生地を木の型に押し込んで型おこしすることから、その名がついたといわれます。形は鯛、ひな人形、桃の花、ひし、海老、鈴など、おめでたいとされるもの。白い生地に淡いピンク、緑、黄色の三色で柄を入れます。家には型がたくさん!?山田餅本店(名古屋市瑞穂区)のおこしもの2月初旬から桃の節句まで販売「尾張地方では広く見られます。うちが創業した当時から既にあり、江戸時代からあったともいわれます」とは1927(昭和2)年創業の山田餅本店(名古屋市瑞穂区)3代目、山田克哉さん。「和菓子屋の中でもうちのような餅屋がつくるもの」ともいい、あくまで庶民的、家庭的なお菓子という位置づけです。「もともとは家庭で子どもにつくらせるものだった。テレビもラジオもない時代に、子どもたちを遊ばせる手段のひとつとして生まれたんじゃないでしょうか。粘土細工みたいなものだから小さい子でもできるし、台所の手伝いのきっかけにもなりますから」(山田さん)ご近所づきあいの証にも地域活動支援センターつきみがおか(名古屋市瑞穂区)で開かれたおこしもの作りの様子名古屋では、子どもや地域住民向けのおこしものづくり教室が学校や公民館などで開かれることも少なくありません。筆者も近所の施設で会があるというので参加してみました。「公民館などで毎年のようにおこしもづくりの会を行っています。私が子どもの頃にはどこの家でもつくっていて、誰のが一番出来がいいか競い合うのも楽しみでした」とはボランティアで指導役を担当する80代の宇津さん。「初めてつくりました。木型が意外と浅いので、生地の分量の調整が難しい。でも楽しいです!」とは母親と一緒に参加していた20代女性。中にはこんなレジェンド的体験を持つ90代女性も。「100歳の双子姉妹きんさんぎんさんとご近所で、人気者になった当時に一緒につくって販売もしていました。家には息子が彫ったものも含めて型がたくさんあって、もう使わないから博物館に寄贈しようと思ったら、『そういう申し出がたくさんあるので引き取れません』とお断りされました。それくらい当たり前のものだったんですね。久しぶりにつくりましたけど楽しかったですねぇ」型おこしして20分ほど蒸したらもう出来上がり。ちょっと硬めの団子のような食感で、かすかに米の甘みも。砂糖醤油をつけると甘みが引き立って、素朴なおやつらしい味わいになります。スナック菓子に慣れている今時の子どもたちには少々物足りないかもしれませんが、味覚体験として季節を感じられるのはとても風雅です。そして、店で買う人も、自分でつくる人も、友人やご近所におすそ分けすることが多いとか。バレンタインのチョコレートの数を競い合うのもいいですが、名古屋人ならおこしものをひとつでもいただけると、地域に溶け込んでいる証になるかもしれません(!?)※記事内容は配信時点の情報です#名古屋めしデララバ