『マンマ・ミーア!』とその時代~名古屋公演とノーベル賞の不思議な縁を発見!

アバ(ABBA)の大ヒット曲『ダンシング・クイーン』(1976年)の発表から50年という節目を前に、劇団四季のミュージカル『マンマ・ミーア!』の名古屋公演が幕を開けた。
エーゲ海の島に生きる母娘愛
『マンマ・ミーア!』は、1999年(平成11年)に英国のロンドンで生まれたミュージカルで、人気グループ、アバ(ABBA)の22曲と共に物語が綴られていく。エーゲ海の小島を舞台にして、母と娘の愛、娘の結婚式に合わせて、母がかつて愛した3人の恋人男性が登場することから繰り広げられる大騒ぎが、コメディータッチで描かれる。日本では、劇団四季が2002年(平成14年)から上演している。
“清涼飲料水”のような爽快感
3度目となる名古屋公演は、2025年(令和7年)10月19日に初日を迎えた。エーゲ海の青い海と波をイメージした幕が上がると、陽光の明るさに包まれたような明るい舞台が弾けていく。『ダンシング・クイーン』を筆頭に、『チキチータ』や『ヴーレ・ヴー(Voulez-Vous) 』などおなじみのヒット曲が、それを盛り上げる。今回のステージで特に筆者の心に残ったのは、主人公である母親のドナと結婚を控えた娘のソフィ、その親子愛だった。この2人の演技と歌唱は実に見事で、物語をぐいぐいと引っ張っていった。そして、観終わった後の爽快感と心温かさ、それはまるで“清涼飲料水”のようなものだった。
『キャッツ』とドラゴンズの縁

劇団四季は名古屋の他、東京や大阪など全国各地に専用の劇場を持っていて、様々な演目の巡回上演を行っている。ファンにとっては「今はどこの町でどんな演目が?」という楽しみもあり、同時に何か“法則”を探してみたくもなる。例えば、人気ミュージカル『キャッツ』には、「名古屋公演の年に中日ドラゴンズが優勝する」というジンクスがあった。
ドラゴンズだけでなく、公演中の地元球団が優勝するという「優勝招き猫伝説」もあるそうだ。3度目の名古屋公演となった2022年(令和4年)は立浪ドラゴンズが最下位で、そのジンクスが途切れてしまったが、『マンマ・ミーア!』はどうなのだろうか。
『マンマ・ミーア!』とノーベル賞?
名古屋での初演は、2008年(平成20年)、北京ではオリンピックが開催され、米国ではバラク・オバマ氏が大統領選挙に当選した。2度目の公演は2015年(平成27年)、日本国内は安全保障関連法の成立に揺れ、海外はイスラム過激派のテロに揺れた。そんな中で見つけた“共通点”はノーベル賞。実は2008年には物理学賞の益川敏英さんと小林誠さんら4人、2012年には同じく物理学賞の梶田隆章さんら2人、それぞれ複数の日本人が受賞していた。そして2025年の秋にも、生理学・医学賞と化学賞で2人の日本人がノーベル賞を受賞した。
巡回公演ならではの魅力

『マンマ・ミーア!』とはイタリア語で「私のお母さん」という意味だが、もうひとつ「信じられない!」という意味もあるそうだ。「なんてこった!」という、もともとの否定的なニュアンスでもあるのだが、ノーベル賞の複数受賞については肯定的に、望外の喜びの意味合いで受け止めてみたい。ついつい無理くりでも、こうした巡回公演との“巡り合わせ”を探してみたくなるのも、長い歴史を持つ劇団四季の魅力ではないだろうか。
幅広い世代に愛される舞台

演劇やミュージカルなどのステージは、時代と共に歩んでいる。基本構成などは変わっていなくても、その舞台自体を取り巻く空気、そして客席に訪れる人は変化していて、そこに新たな歴史が生まれていく。今回の『マンマ・ミーア!』でも、今の時代を取り入れたセリフが加わっていたが、劇団四季によると、過去2回に比べて、高校生による団体鑑賞も多くなってきているそうだ。
結婚する娘に3人の父親がいたり、会話にはエロティックな表現があったり、四季の演目の中では『ユタと不思議な仲間たち』や『ライオンキング』などと比べると、“大人のミュージカル”とも言えるのだが、そんな『マンマ・ミーア!』を観る世代も拡がってきている。世界中で長く愛されているアバ(ABBA)の名曲たちも、その勢いを彩っている。
今回の名古屋公演を最後に、名古屋駅近くにある現在の名古屋四季劇場は、熱田神宮の東側に位置する新天地へと移転する。「時代と共に歩む」という意味では、今回の『マンマ・ミーア!』は劇団四季にとっても、節目の舞台になりそうだ。心温まる家族愛を奏でるステージは、来年(2026年)2月23日まで続く。
【東西南北論説風(635) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】