井上竜の残り30試合は“ベンチ采配”が勝負のカギ「勝てる試合を落とすな!」

毎年のようにこの時期になると思うのだが、ペナントレースは本当に早い。井上一樹新監督を迎えた中日ドラゴンズの2025年(令和7年)シーズンの戦いも、残り30試合となった。クライマックスシリーズ出場への一縷の望みをかけての戦いが続く。(敬称略)
内野陣は誤算続き

思えば、新監督のシーズンは“誤算”続きだった。最大の誤算は「3番・セカンド」に期待した福永裕基のケガによる離脱だろう。いったん復帰したものの2度目の負傷はショックだった。新チームの4番を任せた石川昂弥の思わぬ不振もあった。開幕から13試合を終えたところで、2軍での再調整となった。打線の中核となる「3番と4番」構想が崩れたことになる。レギュラー確実と見られていたショートの村松開人も精彩を欠いた。新チームの二遊間と三遊間を守るはずだった3選手は、現時点1軍のグラウンドにいない。
上林を先頭に活躍組も

数々の誤算があった野手陣の中で、予想以上の活躍を見せた選手も多かった。筆頭は移籍2年目の上林誠知だろう。レギュラーの座を射止めると、福岡ソフトバンクホークス時代以来、8年ぶり2度目のオールスターゲーム出場も果たした。今やチームに欠かせない選手となっている。
村松の不振を埋めてショートを守る山本泰寛も、巧みなバッティングと手堅い守備力を見せている。そして、新外国人選手のジェイソン・ボスラー。序盤戦こそ打てなかったが、ホームランも打てる勝負強い打撃は、ここ数年のドラゴンズには存在しなかった“当たり”の助っ人だろう。
“魔の8回”に悔しい思い

投手陣は、当初は高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)の勝ち星が伸びなかった誤算もありながら、何とか踏ん張って戦ってきた印象だ。自慢のリリーフ陣は、新たなクローザーである松山晋也の大車輪の活躍もあって、僅差のゲームをものにしてきた。ドラフト1位の金丸夢斗がなかなか初勝利に恵まれない中で“奮投”し、これもチームに良い影響を与えた。しかし真夏の戦いの中、「魔の8回」と言われるように、終盤に手痛い失点を喫することが目立つ。勝ったはずのゲームを落とす。応援しながら、何度、悔しい思いをしたことだろう。
ベンチ采配への不安
ここまで113試合を戦って50勝61敗2分、借金11で5位(成績は8月24日現在)。しかし、3位までの差は3.5ゲームであり、クライマックスシリーズ出場へ可能性は十分にある。
これから30試合をどう戦うか?すべては“ベンチ采配”にかかっていると見る。新監督による新たな竜ベンチ、夏以降、勝てる試合を落とし過ぎている印象だ。守備の乱れ、投手交代のタイミング遅れ、リリーフ投手の失敗、そして、代打に指名された打者の適不適。もちろん選手個々の力量もあるものの、同時にこれらはベンチの采配力にも起因する。井上監督もよく「使っているのは俺」と口にする。気になるのはそんな“作戦”と、実際に動く選手たちの“プレー”との間に、何か誤差は生じていないかということだ。
真のポジティブを見せてくれ
井上監督は就任以来「ポジティブ」という言葉を好んで使ってきた。球団スローガンも「どらポジ」であり、春季キャンプも「ポジティブ・バトル」と名づけられていた。しかし、そんな言葉とは裏腹に、シーズンをずっと応援してきた中、必ずしも「ポジティブ」が貫かれていなかったのではないかと感じる時がある。井上監督が2軍監督時代のベンチは、本当に元気だった。もっと声もよく出ていた。当然、今季の1軍ベンチもそうなるはずと思っていたのだが、予想したほどに元気がない局面が散見されるのが残念だ。
泣いても笑っても30試合

クライマックスシリーズ出場は、チームにとってもファンにとっても、13年ぶりの願いである。これからの30試合は、ベンチがより一丸となって「勝ち」にこだわってもらいたい。勝てる試合を落とすはもうご勘弁。“勝利の女神”に隙を見せてはいけない。竜の選手たちに言いたい。2025年ペナントレースは泣いても笑っても、あと30試合しかグラウンドに立てないのだ。勝ち抜かなければ、シーズンはそれで終わる。プロ野球の常として、おそらく今季限りでドラゴンズブルーのユニホームを脱ぐ選手もいるはずだ。決して悔いを残さぬような“一期一会”のプレーを求めたい。
筆者の手元には、9月21日の本拠地最終戦を含めて、まだ3試合分の購入したチケットがある。今季ますますバンテリンドームに詰めかけるファンの数は増え続けている。そんな熱い応援を前に、1試合たりとも無様な戦いを見せてもらっては困る。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。