“お前はカメや”竜・代打の切り札ブライト健太 焦る気持ちを救ったベテラン投手からの言葉

【ドラゴンズを愛して半世紀!竹内茂喜の『野球のドテ煮』】CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日12時54分から東海エリアで生放送)
不振にあえぐチームを救うムードメーカー

7月8日、山形でのナイトゲームはドラゴンズにとってなんとも痛い敗戦となった。誰もが願ってやまないスーパールーキー金丸夢斗投手のプロ入り初勝利が手の届くところまできてのサヨナラ負け。チームは3連敗を喫し、借金は今季最多11まで膨れ上がった。失意の中、場所を福島にかえての読売ジャイアンツとの連戦。この日は悪天候にも翻弄され、雨と雷での二度の中断。暗く沈むベンチ。そんな雰囲気を一瞬にして“この男”が変えてくれた。チームのムードメーカー、ブライト健太選手がベンチ内でおもむろにオードリー春日俊彰の「カスカスダンス」を披露。勝手ながらそこから流れが変わり、相手の守護神ライデル・マルティネス投手攻略の足がかりになったのではないかと妄想したものだった。
いつもベンチの一番前で大声を出してはチームを鼓舞し続けるブライト選手。しかし今季は声が武器だけではない。代打の切り札としてチームへの貢献度は高い。
“やりましたー!”
ヒーローインタビューに呼ばれれば、球場内にこの言葉がこだまする。いまやドラゴンズきっての盛り上げ役となったブライト選手。チームに欠かすことのできない存在となっている。そんな彼の活躍に井上監督も目を細める。
井上監督「数字以上のモノを持っている。ここぞという時の集中力は他の選手にないモノを持っている」
指揮官からの信頼を勝ち取った。だが、胸の内は…。ドラフト1位でドラゴンズに入団し、早4年。お立ち台で見せる笑顔の裏に隠された26歳の現在地を探った。
悔しさ募る代打での起用

開幕からここまでブライトの出番は、試合を左右する重要な場面での“代打”が多い。それもそのはず得点圏にランナーを置いた場面では代打での打率が.375(7月13日現在)と高い数字を残している。この勝負強さを買われ、今シーズンは代打の切り札という地位をつかんだ。
ブライト選手「もう割り切るというか、1打席しかないので。ベストを尽くして打てなければしょうがない。監督やコーチからは迷って打席に入っちゃダメだと言われています」
勝負強さという新たな武器を身に付けた背番号42。井上監督も嬉しい悲鳴を口にする。
井上監督「スターティングメンバーで使いたい気持ちにさせながらも、あとから大事な場面で使うのが一番チームのためじゃないですかね」
ここぞという場面で残しておきたい。
井上監督から最大級の賛辞を送られ、徐々にその看板も板についてきた。それでも本人は決して満足はしていない。
ブライト選手「やっぱり悔しいですね」
本人自身、外野のスタメン争いに敗れた末の現状との認識。ひとえに力不足。やはり野球選手たるもの、スタメンに名を連ね、勝負が決まるまでグラウンドに立っていたい。それが偽らざる本音であろう。
焦りを消したベテランの言葉

思い返せば4年前の2021年。大型外野手として上武大からドラフト1位で入団したブライト選手だったが、キャリアの前半は出遅れた。ルーキーイヤーの2022年はケガもあり、一軍出場はなし。その傍らでドラフト同期の鵜飼航丞選手は早くも一軍デビュー。ホームランも記録し、なんとも同期の活躍が彼の目にはまぶしく映ったに違いない。
ブライト選手「一年目はずっとケガばかりで。目の前で鵜飼が打って焦る気持ちも強かったです」
我慢の時だと頭では理解していても焦りは増すばかり。そんな状況から救ってくれたのはベテラン大野雄大投手のある言葉だった。
“お前はカメや”
ウサギとカメの話に例え、最初が良ければ全部良いという訳ではない。焦らず15年後まで活躍したら良いではないかと。
まさに心の荒みを消す一言だった。今できることをやろうと、気持ちを一新。嫌な焦りを失くす貴重な言葉となった。
金言をもらってから3年後の今年6月6日、バンテリンドームでの千葉ロッテマリーンズ戦に先発した大野投手。6回を投げ2無失点の好投。味方の勝ち越しを信じ、戦況を見つめていた。6回裏2アウト1、2塁で打席にはブライト選手。ライト前へのタイムリーを放ち、これが決勝点。ゲーム後には二人揃ってお立ち台に上がった。いつか大野さんが投げる時に打って、勝ちをプレゼントしたい。その思いがまさに成就した瞬間だった。
嬉しいプレゼントに満面の笑みを浮かべた大野投手だったが、新たなる“注文”も忘れないのが後輩思いの大野投手だ。
大野投手「まだ代打の切り札になるのは早すぎる。スタメンで出て、4打席立って活躍する選手だと思っています。毎日使ってもらえる選手になって欲しいです」
ドラゴンズにおいて勝負強いバッターは誰?と聞かれて、全員から“ブライトしかおらん!”とベタな名古屋弁が返ってくるほどの活躍を心底から期待したい。そして毎試合あのフレーズを耳にするのを楽しみに待っている。
“3、2、1、やりましたぁー!”
がんばれブライト!
がんばれドラゴンズ!
燃えよドラゴンズ!
竹内 茂喜