“シン・守護神”松山離脱の大ピンチに魅せた、大野雄大“竜のエース魂”

激震が走ったのは、今季2度目の「昇竜デー」だった。2025年7月4日、今季クローザーとして無双の活躍を続ける松山晋也が、上半身の不調で登録を抹消された。この日に梅雨明けした猛暑の名古屋、重い気持ちと共に、観戦応援のためバンテリンドームへ向かった。(敬称略)
球宴ファン投票で堂々1位

好事魔多し。4日前に発表されたオールスターゲームのファン投票の抑え投手部門で、松山は堂々の1位で選ばれていた。当初は讀賣ジャイアンツのライデル・マルティネスがトップだったが、6月5日の時点で逆転すると、そのまま走り抜けた。獲得した票数は53万5,146票、マルティネスが40万6,868票。13万票近い圧倒的な差をつけた。ファンによって“リーグを代表する抑え投手”に選ばれたのであり、夢の球宴の舞台で、しっかりと勝利の「OKサイン」を披露してほしいと思った矢先のアクシデントだった。
灼熱の特別ユニホーム

ドームに到着して、来場者に配布される特別ユニホームを受け取って、5階のパノラマ席へ向かった。「太陽」をテーマとした灼熱の色のデザインだ。松山離脱の危機だが、この色のように燃えてほしい。「ブルーサマーフェスティバル2025」と名づけられた東京ヤクルトスワローズとの3連戦。試合前には、人気の女性ボーカル6人組「Little Glee Monster」によるミニライブもあった。しかし、松山がブルペンにいないという不安と心配もあって、どこか素直に楽しむことができない。しかし、そんな暗雲を忘れさせてくれたのは、この日の先発マウンドに上がった大野雄大だった。
初回を抑えて波に乗る
直前の横浜スタジアムでの3連戦は、先発投手がいずれも初回に失点した。十分にそれを意識していた大野だが、先頭の並木秀尊にレフト前ヒットを許す。しかし、続く岩田幸宏をセカンドゴロ併殺に打ち取る。続く3番の赤羽由紘に四球を与えるも、この回を無失点で抑えた。そして、続く2回からは“大野雄大劇場”の幕開けだった。危なげないピッチングに加え、4回表には赤羽の小飛球をダイビングキャッチしてアウトにする気迫も見せた。大いに沸くスタンド。打線も小刻みだが2点を奪った。2対0のまま、ゲームはテンポよく進んだ。
完封を夢見たスタンド席

8回を投げたところで、84球。9回表のマウンドに向かう背番号「22」を、スタンドからの万雷の拍手が包み込む。4年ぶりの完封どころか、先発投手が100球未満で完封する「マダックス」さえ達成するのかと期待した。しかし、大野本人が試合後のお立ち台で明かしたように“脚がつった”ことにより、9回1死で無念の降板となった。大野が残した1死2、3塁のピンチは、松山に代わるクローザー、清水達也が抑えて勝利。連敗は5で止まり、大野は今季4勝目を手にした。
真の「エース」とは何か?

「エース」という称号のハードルが下がっている。少し活躍しただけで、周囲どころか、チームの監督ですら「エース」という言葉で、その投手を呼ぶことが多い。かつて落合博満監督は「5年続けて2ケタ勝って、ようやくエース」と、当時、吉見一起投手を鼓舞した。吉見さんはそれを実現した。最近のドラゴンズで言えば、川上憲伸さん、吉見さん、そして大野雄大という“エースの系譜”だろう。昨季、大活躍だった高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)ですら、まだ「エース」ではなく、今季は“エースへと歩むシーズン”なのである。それだけ「エース」という言葉は重い。
大野が見せた「エース」の姿

大野ですら、この日の勝利で通算成績は90勝96敗。まだ負け越しているのだが、沢村賞まで取った投手だけにやはり「エース」である。そして、もうひとつ「チームが勝ってほしい試合に先発して勝つ」ことも、エースの条件であろう。その意味では、チーム5連敗中、さらに松山の離脱という苦しい中で、堂々の投球を見せて勝利投手となった大野は、正真正銘の「エース」である。
「ブルーサマーフェスティバル2025」3連戦は、残念ながら最下位相手に負け越した。エースが“注入”してくれた勢いの波に乗り切れない、そんな現在のドラゴンズがもどかしい。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。CBCラジオ『ドラ魂キング』『#プラス!』出演中。