働きやすさは制度だけでは生まれない。大切なのは現場の小さな声
名古屋市の「令和7年度子育て支援企業」で優秀賞を受賞した、あいち銀行。前半では、内勤業務を経て法人営業に挑戦する小澤苑子さんのお話を伺いました。
子育てと仕事を両立しながら、新しいキャリアに踏み出す背景には、本人の努力はもちろん、会社の復職支援や育児との両立を支える制度があります。ただ、制度があれば十分というわけではありません。
今回は、あいち銀行がいかにして「制度を使ってもいい空気」をつくっているのか。人事部 DE&I推進グループの池田今日子さんにお話しを伺いました。
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不安を、一人で抱え込ませない

育休からの復職は、誰しもが不安を抱えるタイミングです。
あいち銀行では、育休中の行員を対象に毎年3月「パパママ復職支援セミナー」を開催しています。外部講師による講義のほか、先輩パパ・ママとの座談会を実施。
「子どもが熱を出したとき、実際に休暇は取れる?」
「どんなタイムスケジュールで過ごしてる?」
といったリアルな疑問を解消する場となっています。当日は託児も用意されており、自分のキャリアをゆっくり考える時間にもなっているといいます。
このセミナーの大きな特徴は、他社に勤める配偶者も参加できる点です。
以前は女性中心のセミナーでしたが、昨年から「パパママ復職支援セミナー」という名称に変わり、夫婦で一緒に参加できるようになりました。
池田さん:「復職は本人だけの問題ではありません。家庭内でどう役割を分担するかを夫婦で考えるきっかけになることを目指しています」
育休取得と復職を、段階的に支える

復職支援は、セミナーだけにとどまりません。
あいち銀行では、育休復帰前には面談を実施。配属希望や時短勤務の意向を丁寧にヒアリングするほか、自宅近くへの配属など、通勤時間への配慮も行っています。
また、復帰直後には最長5日間の研修が用意されており、ブランク期間の社内情報をキャッチアップできる体制を整えています。育休中もeラーニングで社内情報を確認できる環境も整えられています。
近年は男性育休の取得推進にも力を入れています。2025年度の育児休業等取得率は100%を達成し、半年から1年程度取得する行員も出てきているといいます。
池田さん:「男性育休への理解を促すために、行内のお知らせで育休取得者を紹介したり、人事部から上司をCCに入れた取得推進メールを送ったりしています」
こうした地道で丁寧な働きかけが、安心して育休を取得でき、安心して戻れる職場をつくっています。
現場の声を制度につなげる「あいちーむ」

あいち銀行には、多様な人材が働きやすい職場づくりについて話し合う「あいちーむ」というダイバーシティ推進委員会があります。あいちーむは、性別・年齢・職位・経歴の異なる15名のメンバーで構成され、「多様な人財の活躍」「リスキリング」「エンゲージメント」の3つのチームに分かれて活動しています。役職や立場を超えて、現場のリアルな困りごとや悩みについて率直に意見を交わせる場です。
前半に登場した小澤さんも「多様な人財の活躍」チームのメンバーとして参加しています。
小澤さん:「女性活躍を含むキャリアの多様化に向けて、人財育成などの施策を提言しました。一人ひとりが自分らしいキャリアを描き、長く活躍し続けられる環境づくりに、これからも取り組んでいきたいです」
ロールモデルがいない中で挑戦してきた小澤さんが、今度は次の誰かのために声を出す側になっています。その姿は、あいちーむの役割を象徴しているようにも見えます。
あいち銀行では不妊治療・子どもの看護・家族の介護などに利用できる休暇制度が2024年度から導入されました。その背景には、制度を利用する行員の目線に立ち、「使いやすさ」にまで配慮した「あいちーむ」の工夫があります。
池田さん:「不妊治療など休暇の理由を周囲に言いづらいという方もいると思うんです。誰もが取りやすいように『ファミリーサポート休暇』という名前にして、取得理由は申告不要という制度にしました」
名称を工夫することで、利用しやすさにつながっていると考えられます。働きやすさは、制度改革だけでなく、名前の変更や申請方法の変更など、細やかな気配りが大きな効果をもたらすのかもしれません。
もともと女性活躍の推進の流れから発足したあいちーむは、次のステージへ向かっています。性別、年齢、経歴、子育ての有無を問わず、それぞれの働きにくさやキャリアにおける課題に目を向けるようになりました。「リスキリング」チームでは、高度な資格を取得した人が継続して力を発揮するにはどうすればよいか、というテーマも話し合われています。「エンゲージメント」チームからは「月曜日が楽しみになる銀行にしたい」という言葉も出ているといいます。
「誰もが働きやすい職場」をつくるため、あいちーむの視野は着実に広がっています。
47名が手を挙げた、女性リーダー育成研修「Wing」

2025年12月、係長・主任クラスの女性行員を対象にした女性リーダー育成研修「Wing」をスタートしました。外部講師によるマインドセット研修や、先輩行員との交流、グループワーク、キャリア面談など、約8か月をかけて取り組む研修です。公募制としたところ、定員を大きく上回る応募がありました。
池田さん:「誰も手を挙げない可能性もあると思ったのですが、実際は定員の2倍以上となる47名の応募がありました。AIの進化で事務仕事は減っていくのではないかという危機感を持つ人が増えているタイミングだったことも影響したかもしれません」
銀行は拠点が分散しているため、自分の職場にロールモデルとなる女性がいないこともあります。小澤さんがまさにそうでした。だからこそ、先を歩く人と出会い、話を聞ける機会に意味があります。一方で、小澤さんはこんな本音も話してくれました。
小澤さん:「他業界で活躍されている方の話を聞くと、あまりにすごすぎて参考にしづらいと感じることもあります。それでも、話を聞くことで、自分の向かうべき方向を後押しされている感覚はありますね」
ロールモデルとは、「完全に真似する相手」ではないのかもしれません。自分の少し先にある可能性を見せてくれる存在であり、「こういう選択肢もあるんだ」という小さな気づきが、一歩踏み出すきっかけになるのでしょう。
働きやすさは、小さな声を拾うことから
あいち銀行の取り組みに共通しているのは、「制度の利用を本人任せにしない」という姿勢でした。
育休取得、復職の不安、そして不妊治療といったデリケートな問題。
現場の小さな違和感を個人の我慢で終わらせないという積み重ねが、誰もが働き続けやすい職場をつくっています。
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