ドラゴンズとDH制の関係は?星野仙一や郭源治のホームランは伝説の彼方へ

プロ野球の歴史が大きく動く。セ・リーグが指名打者(DH)制の採用を決めた。パ・リーグが制度を始めてから実に半世紀、時代の波が押し寄せる中での決断だった。(敬称略)
パ・リーグでは半世紀前から
指名打者は、英語で「Designated Hitter」略して「DH」。守備につくことなく投手の代わりに打席に立つ“打つ専門”の打者のことだ。米メジャーでは、1973年(昭和48年)にアメリカン・リーグで導入された。点の入る打撃戦によって、観客を増やす狙いだったという。しかし、もうひとつのナショナル・リーグは導入を見送った。
そんな中、わずか2年後の1975年(昭和50年)からDH制を採用したのが、海を隔てた日本プロ野球のパ・リーグだった。当時は現在と違って、観客動員においてセ・リーグに大きな差をつけられて苦戦していて、何とかそれを打開したいという狙いだった。
高校野球での導入が決め手
セ・リーグは、その後、議論を重ねながらもDH制の導入には慎重だった。「投手の打撃にも魅力がある」「代打を出すと戦術が面白い」「高校時代に打って走って“エースで4番”という選手も多い」などが理由だったが、しかし、2025年(令和7年)夏、高校球界の決断によって、事態は大きく動いた。2026年春のセンバツから、高校野球でもDH制が導入されることが決まったのである。同じタイミングで、大学野球もリーグ戦でDH制を始める。米国のナ・リーグも2022年から採用していて、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でもお馴染みの制度、世の流れは完全に「DH制」だった。
ドラゴンズ打線どう変わる?

セ・リーグでのDH制は、再来年の2027年シーズンからと発表された。竜党として気になるのは、やはり中日ドラゴンズである。来年には、本拠地バンテリンドームにホームランウイング(仮称)が設置されて、今よりホームランも出やすくなると見られている。ホームランウイングに加えてのDH制、ここ数年、得点力不足に悩むドラゴンズの打線がどう変わるのか、どう変えていくのかは球団フロントにおまかせするとして、ここではDH制を念頭に、球団史をひも解いてみたい。
過去の打者に当てはめると
もしDH制があったら、「この選手が当てはまったな」と真っ先に頭に浮かんだのは、トーマス・ジーン・マーチン。1974年(昭和49年)の20年ぶり、リーグ優勝の際の4番打者で、ライトを守っていた。その守備は決して得意でなかった記憶がある。
平成時代に入ってからでは、落合博満監督時代の、タイロン・ウッズやトニ・ブランコだろうか。この2人をDHに置いて、ゴールデングラブ賞を取ったこともある渡辺博幸(現・2軍野手総合・育成コーチ)あたりがファーストに入っていたら、ますます強靭な“守り勝つ野球”であったはずだ。
星野仙一の本塁打15本
DH制によって、今後は投手が打席に入ることはほとんどなくなる。しかし、ドラゴンズには“打撃がいい”投手が多かった。その筆頭格として思い浮かぶ星野仙一は、プロで実に15本のホームランを打っている。星野の明治大学の後輩でもある川上憲伸もホームラン8本を記録した。最近では、これも明治OBの柳裕也も打撃には定評があり、9番ではなく8番の打順に入ったこともある。彼らの打撃フォームは、打者顔負けの落ち着いて構えである。こういう姿を見ることも楽しみだった。
郭源治サヨナラホームラン
忘れられないのは郭源治のサヨナラホームラン、1988年(昭和63年)5月だった。
7回からリリーフ登板した郭は、同点に追いつかれて、4対4のスコアで延長戦も投げ続けていた。そして11回裏、ランナーを置いて郭に打順が回ってきたが、当時の星野仙一監督は、そのまま郭を打席に立たせた。結果、郭はレフトスタンドにサヨナラ2ランを打った。マウンドは讀賣ジャイアンツの槙原寛己だった。6対4で劇的な勝利、この年、星野ドラゴンズはリーグ優勝し、郭はMVPに選ばれた。
虎の江夏にはやられた!
逆にやられた時の記憶も残っている。相手は阪神タイガース、マウンドは相手エースの江夏豊だった。1973年8月の甲子園球場、ドラゴンズ打線は江夏によって、延長11回までノーヒットノーランに抑えられていた。その裏、打席に立った江夏は、同じく11回を投げてきたドラゴンズの先発左腕・松本幸行からライトスタンドにサヨナラホームランを打ち、自作自演でノーヒットノーランの大記録を作ったのだった。こんな投手たちの打席でのドラマももう見られなくなる。
“大谷ルール”も採用される
大谷翔平が“二刀流”として花開いたのは、入団したのがパ・リーグの球団であったことが大きいという指摘がある。もしセ・リーグだったら、投手として登板しない日も、打席だけでなく毎回守備につかなくてはならない。疲労は蓄積し続けたはずだ。メジャーでは、大谷のために、先発投手が降板後もDHとして打席に立つことができるという、いわゆる“大谷ルール”を新たに作った。セ・リーグではこのルールも導入される。投手としても能力のある打者がいれば、この“二刀流”DH制も活用されるかもしれない。
100年余りの歴史を持つ日本プロ野球。そんな中で、まもなく球団創設90周年の節目を迎えるドラゴンズ。目の前で繰り広げられているペナントレースを応援しながらも、来年、そして再来年に向けての新たな鼓動にも耳をすませたい。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。