山岳救助のリアリティも追求したミステリー「山上のフェイク」
水曜日の『CBCラジオ #プラス!』では、話題の新刊や名作を紹介しています。9月16日の放送では、書評家の大矢博子さんが潮谷験(しおたに・けん)著の『山上のフェイク』(光文社)を取り上げました。聞き手は永岡歩アナウンサーです。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴くあらすじ
CBCのある名古屋市では9月8日の豪雨以降、すっきりしない天気が続いています。
大雨による被害はもちろんですが、「決して大雨じゃなくても、小雨であっても、時とところによっては危険だぞ」ということが分かる山岳ミステリーとして、大矢さんは本作を紹介しました。
物語は、大学時代のサークル仲間6人が同窓会を開くところから始まります。久しぶりの再会を喜ぶ6人が集まったのは、小高い山の中腹にある山荘でした。 ところが、山荘の持ち主である沼田が、6人を前に「この中に妹を殺した犯人がいる」と告げます。
犯人は誰なのか。その謎は、参加者の1人である女性の日記を通して読者に伝えられます。日記には犯人が特定されるまでの出来事が記され、そこで第1部が幕を閉じます。
そして第2部では、物語が大きく動くことに。
6人は山の麓に集合し、山荘まで2時間弱のハイキングコースを歩きます。登山というほど険しい山ではありませんが、午後3時ごろに山荘へ到着すると雨が降り始め、その夜には大雨に。翌日になっても6人が帰宅しないことから、家族が山岳救助隊に捜索を依頼します。
救助隊が山荘に到着すると、そこには1人の死体が残され、6人のうちほかの5人は姿を消していました。
いったい5人はどこへ行ったのか。そして、山荘で何が起きたのか。ここから新たな謎が展開していきます。
魅力その1
大矢さんは本作の読みどころのひとつとして、「嵐の山荘」という閉鎖された環境を挙げました。吹雪の山荘や嵐の孤島など、外界から隔絶された場所で事件が起きる設定は、ミステリーではおなじみです。
いわゆる「クローズドサークル」では、外部から警察が介入しにくく、犯人もその場にいると考えられるため、事件の緊張感が高まります。
本作の第1部でも、細かな手がかりを積み重ねながら、少しずつ犯人を絞り込んでいく展開が描かれます。
大矢「ちょっとずつ犯人があぶり出されていく、その過程っていうのは、これぞ謎解きミステリーっていう醍醐味があります」
さらに第2部では、救助隊が到着した時点で1人が死亡し、ほかの5人がいなくなっているという状況に。5人は死体を残して、雨の中を下山しようとしていました。その間に何があったのかが少しずつ明かされ、やがて最初の女性の日記とは別の日記も発見されます。
しかし、その日記には最初の日記とは異なる内容が記されていました。複数の日記を軸に謎が重なり、トリックやどんでん返しが次々と仕掛けられているとのことです。
魅力その2
本作のもうひとつの大きな魅力として、大矢さんが挙げたのが山岳救助のリアリティです。 人はどのような状況で遭難するのか。なぜ危険な行動を取ってしまうのか。そして、山で降る雨にはどのような危険があるのか。物語では、こうした山の危険が具体的に描かれています。
舞台となるのは7月で、大雨は夜のうちに終わり、5人が下山しようとするころには小雨になっています。そのため、登場人物たちは「もう大丈夫だ」と考えてしまいます。 しかし、雨で濡れた状態が続けば、夏でも低体温症になる可能性があります。
さらに今回の山はハイキングコース程度の高さであるため、登場人物たちの装備も十分ではありません。Tシャツにデニム、100円ショップで購入したようなレインコートという格好で雨に濡れ続けます。
低体温症は身体が動かなくなるだけでなく、それ以前に思考力にも影響。正常な判断ができなくなり、「なぜそんなことをするのか」と思うような行動を取ってしまうことがあります。
大矢さんは、この低体温症の怖さが本作では明確に描かれており、それ自体がミステリーのトリックにも関わってくると話しました。
定番王道×山の怖さ
永岡は大学時代のサークル仲間6人が集まり、その中に妹を殺した犯人がいると告げられるという設定について、「全部聞いたことあるぞ!」と、ミステリーでおなじみの展開であることを指摘します。
その一方で、そこに山岳ミステリーの要素が加わることで、物語にさらに深みが生まれていると評価しました。
大矢「嵐の山荘ものって、もうそこだけで完結する話が多いんですけど、考えてみたら、そりゃ家族は心配するし、救助隊だって出るよな。そっちの視点で書いたっていうのはね、相当珍しいなと思います」
『山上のフェイク』は、閉鎖空間で繰り広げられる本格ミステリーの醍醐味に加え、山で起こる遭難や低体温症の恐ろしさまで描いた一冊。ぜひ手に取って、謎解きと山の怖さの両方を味わってみてはいかがでしょうか。
(ランチョンマット先輩)
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