数か月先の自然災害が予測できる?地球デジタルツイン技術

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は甚大な被害を及ぼす台風や豪雨の発生頻度などを数か月前から予測できる技術の実証に成功したと日本経済新聞が報じました。仮想空間上に地球を再現した「地球デジタルツイン」という技術を活用し、季節ごとに起きる天候の異常現象を高い精度で早期に予測することで被害を抑えることができると期待されています。9月13日放送『北野誠のズバリサタデー』(CBCラジオ)では、海洋研究開発機構付加価値情報創生部門アプリケーションラボ気候変動予測情報創生グループ主任研究員の土井威志さんに尋ねます。聞き手はパーソナリティの北野誠と加藤由香アナウンサーです。
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まずは異常気象の予測に使われる「地球デジタルツイン」という技術について説明する土井さん。
「地球デジタルツイン」とは、観測データを元にAIなどを使って実際の地球環境を再現し、さまざまな実験や予測を行うことで実際の行動や意思決定を支援するツールのこと。
まずは力学や熱力学などの物理法則を元に将来の空や海の状況を計算できる数式を作ります。
そしてバーチャル空間にある地球全体を格子状に分割し、1つ1つの格子に対して、作った数式を解くようスーパーコンピューターに命令し、10分先の未来を計算することを繰り返すことで、数か月や数年先の地球環境を予測するというものです。
「地球デジタルツイン」という名前は、米半導体大手のNVIDIAが使ったのが最初ですが、昔から仮想空間で地球を再現し計算する手法はシミュレーションやモデリングなどと呼ばれ、各所で研究が行われてきました。
季節予測で期待できること
この先猛暑なのか暖冬かなどの季節予測ができれば、作物の収量予測や蚊が媒介するマラリアなどの感染症の予測、冬の電力需要の予測などが可能になるかもしれません。
これらの予測ができれば、豊作が予測される地域から凶作が予測される地域へあらかじめ食糧流通の強化を行ったり、殺虫スプレーの散布などを強化して蚊を減らしたり、タンカーなどによるエネルギーの輸入強化を電力需要に合わせて行うなど、さまざまな被害を軽減する対策をあらかじめ打つことができます。
また、台風などの被害が予測できれば、あらかじめ対策を練っておくことで人命の被害を減らすことができるかもしれません。
予測ができるようになった理由
「地球デジタルツイン」という言葉ができる前から、自然災害に関するシミュレーションは行われてきたとのことですが、なぜ今、何か月もの先の予測ができそうという状況になってきたのでしょうか?
その理由として、土井さんは海洋観測とスーパーコンピューターの発展の2点を挙げました。
数か月先の天候を予測するためには、熱容量の大きい海洋の状況を把握する必要があります。
熱容量が大きいと温まりやすくて冷めにくいのですが、そのような特性により海の情報は長続きするとのこと。
20年前は海中の観測データはすごく限られていたのですが、今は世界中の海でアルゴフロートというロボットが4千台程度、水温をほぼリアルタイムで届けていて、たくさんの情報が得られるようになっています。
コンピューターの性能がアップ
また、海洋研究開発機構が有するスーパーコンピューターの地球シミュレーターは、今稼働しているのが4代目ですが、2002年に稼働した初代と比べると性能がなんと500倍。
膨大なデータとそれを処理できる技術が、今後人々を救うかもしれません。
土井さんは最後にこうまとめました。
「被害を受ける方の意思決定や行動、被害を軽減するという行動をする時の手がかりにしてほしい、それを支援したい。あるいは、生態系では例えば養殖場が被害を受けるとかいった時に、どれぐらいお金のロスを減らすことができるか。
そういったこともコンピューター上で計算できると、みなさんの意思決定を支援するという意味でデジタルツインという言葉が使われています」
(岡本)
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