川上憲伸が明かす98年新人王争いの裏側「もう挑戦じゃない、守りだった」

CBCラジオ『ドラ魂キング』、「川上憲伸、挑戦のキセキ」は、野球解説者の川上憲伸さんが、自身のプロ野球人生を「挑戦」という切り口で振り返るコーナーです。9月3日の放送では、ルーキーイヤーのオールスター以降、新人王争いの中で感じていた意外な心理状態について伺いました。聞き手は宮部和裕アナウンサーです。
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前々回の放送で、ルーキーイヤーにナゴヤドームで開催されたオールスターゲームでMVPを獲得し、野村克也監督への感謝を語った川上さん。しかし、その華やかな成功の裏で、プレッシャーとの戦いが始まっていました。
「オールスター以降は、いろんなことが試合の中でよぎるっていうか」と川上さん。最多勝や防御率も狙える位置にいて、そして何より新人王という最も意識していたタイトル争いの中で、様々な目標を妙に意識してしまうようになったといいます。
「黙々とその一球入魂で、その一試合にかけてやるっていうのは当然なんですけど。もし勝てなかった場合とか、否定的なことも考えたり」
激しい新人王争いの中で
この年の新人王争いは熾烈でした。川上さんはライバルの動向が気になって仕方なかったといいます。
「高橋由伸は今日は打ったのかとか。坪井(智哉)さんは今、打率どうなのかとか」
坪井選手は一時、首位打者に立っていました。また、広島の小林幹英投手も、中日の宣銅烈(ソン・ドンヨル)投手が不調から離脱したことで、セーブ王争いに躍り出ていたのです。
「タイトルを取り始めると、もう訳が違うだろうと。由伸と僕とかの問題じゃなくなってこないかっていう」
川上さんは、タイトルを取れる可能性のあるポジションに複数のライバルがいることに焦りを感じていたのです。
「初々しさはない」重圧の日々
この頃の川上さんは、すでに重圧を背負う立場になっていました。
「オールスター以降っていうのは、僕の中ではもう1年目っていう初々しさはないですよ。いい意味のプレッシャーっていうんですか」
川上さんは当時について「挑戦っていう考えなんか一切ない」と明かします。すでに「守りながら実績を出していかなければいけない」という意識に変わっていたというのです。
実は川上さんは、ルーキーイヤーだけでなく現役生活を通じて、常にネガティブな思考が先行していたといいます。「1イニング目からランナーを出したらどうしよう」「先頭打者を出したらどうしよう」「1点取られたらどうしよう」。そんな不安から始まっていました。
ポジティブに考えると、ピンチを迎えた時の準備ができていないと感じていた川上さん。「ツーボールまでは凌げても、スリーボールになると不利になりすぎる」など、様々なことを考えていたといいます。
「もう少しポジティブさがあればね、僕に。良かったんだろうけど」
ゾーンに入る瞬間
しかし、ピッチャーには「ゾーン」に入る特別な瞬間があるといいます。
「体が勝手に温まってきて、勝手に体が、心もでき始めてくると、あんまりナーバス的なことは考えなくなるんですよ。もう体の反応に任せて投げるみたいな」
そういう時は年間に数イニング程度ですが、ルーキーイヤーにもすでにあったといいます。
それは試合の4回、5回を過ぎた頃から訪れることが多かったそうです。
「それ以外は全部、ちょっと嫌なことも想像しながらとかね」
キャッチャーからのプレッシャー
興味深いエピソードとして、川上さんはキャッチャーからのプレッシャーについても明かしました。
「嫌なことをまずキャッチャーも言ってきますしね。6回に1点取ってもらったら、キャッチャーが普通に言ってくるじゃないですか。『憲、このイニングは大事やで。取ってもらった後に、しかも先頭やで、しかも初球やで。これ、考えなあかん』とか言って」
そう言われると、川上さんの頭の中では、「じゃあ、出しちゃったらよくない。同点にされちゃったらどうなるんだ」という不安が渦巻きます。
極端な話、「1点リードなら同点まではええやんか」と考える人もいるだろうと思いながらも、川上さんにはそんな割り切りはできなかったのです。
このネガティブ思考こそが、徹底した準備と、マウンドでの圧倒的なパフォーマンスを生み出していたのかもしれません。
ライバルたちとの激しい新人王争いの中で、プレッシャーと向き合いながら結果を残し続けた川上さん。その裏にあった意外な心理状態が、明らかになりました。
(minto)
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