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豊橋発の優しい嘘「バスの来ないバス停」で認知症高齢者の徘徊を防ぐ

豊橋発の優しい嘘「バスの来ないバス停」で認知症高齢者の徘徊を防ぐ

9月3日放送のCBCラジオ『北野誠のズバリ』、「松岡亜矢子の地元に聞いちゃうぞ」のコーナーでは、認知症高齢者のケアとして注目されている「バスの来ないバス停」を紹介しました。愛知県豊橋市のグループホームで始まったこの取り組みは、徘徊防止と安全確保の新しいアプローチとして全国に広がりを見せています。

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バス停が高齢者を守る仕組み

愛知県豊橋市のグループホーム連絡協議会のメンバーが始めたユニークな取り組みがあります。それは、認知症高齢者が暮らすグループホームの前に「本物のバス停」を設置するというものです。

施設から外に出ようとした利用者は、バス停を見つけると「バスを待とう」と立ち止まります。その間に職員が声をかけ、安全に保護できる仕組みです。

これは豊橋鉄道から無償で提供された、現役を引退した本物のバス停。すでに市内のグループホームに10基以上設置されていて、時刻表も30分に1本ほどのダイヤが掲示されています。

職員はバスを待つ利用者に「バスがなかなか来ないね。じゃあ中でお茶を飲みながら待っていようか」と声をかけます。すると「家に帰ろう」という気持ちを忘れ、そのまま部屋に戻ることが多いそうです。

徘徊防止と会話のきっかけ

この取り組みは今年で4年目を迎えました。九州、京都、名古屋へと広がり、11基目のバス停が豊橋市内に設置されたことが先日のニュースでも報じられました。

発起人のひとりである、さわらび会 地域密着型サービス事業所「カサデヴェルデ」の管理者・内藤きみ子さんによると、豊橋市内の70代から90代の高齢者にとってバスは非常に馴染み深い交通手段であり、場合によっては唯一の移動手段だった人も少なくないといいます。

そのためバス停の設置は徘徊を防ぎ、安全を確保する効果が高いと考えられているそうです。

また、実際にバスが来ないと分かっている人にとっても「バスが来たらどこへ行こうか」「こどもの時にバスに乗って〇〇に行った」などの会話のきっかけになり、日々の生活に張りをもたらしているそうです。

“本物のバス停”にこだわった理由

「バスの来ないバス停」はもともとドイツで考案されたもので、設置後に大きな効果を発揮したことから、世界的に注目された取り組みです。

グループホーム「ジョイア・ミユキ」の武田さん、「もみじ」の伊藤さん、そして内藤さんの3人が「この取り組みを豊橋でもやってみよう」と話し合ったことから導入が始まりました。

3人が特にこだわったのは「本物のバス停」であることです。内藤さんは次のように話します。

内藤さん「偽物のバス停だと馴染みがないので、『これ偽物だよね』って見抜かれてしまう。お年寄りの方は目が肥えているので、『これバス停じゃないよね』と感づくというか。そうすると待ってくれないですし、やっぱり説得力がないっていうところもあると思います」

内藤さんたちは「偽物ではただのおもちゃになってしまう」という考えから、どうせ設置するなら本物にしようと考えました。そこで豊橋鉄道に相談し、実際に使われていたバス停の提供を受けることにつながったといいます。

「家に帰りたい」に寄り添う

認知症高齢者が施設から出て行こうとする理由の多くは「家に帰りたい」という思いだといいます。利用者の気持ちを尊重し、職員が「歩きながらお家を探そうか」と声をかけて一緒に散歩に出ることもあるそうです。ただ、中には足腰が強く、毎日数時間歩き続けてしまう人もいます。

内藤さんによると、帰りたい理由は様々で「家が散らかっているのではないか」「家に置いてあるお金が心配」「何かを忘れた気がするから取りに行きたい」といった声が聞かれるそうです。

特に切ない事例として、毎年みかんのシーズンになると「庭に植えたみかんを収穫しに行かないと」と言いながら帰ろうとする利用者がいるとのこと。職員が付き添って家に戻り、みかんを一緒に収穫することもあるといいます。

また、すでに取り壊されてしまった家に帰ろうとする利用者もいるそうです。

地域全体を守る優しい嘘

この「バスの来ないバス停」は、グループホームの利用者だけでなく、地域の認知症高齢者の方にも効果を発揮しています。
施設以外の近くに住む認知症の方が自宅から出てしまった際、道に迷いながらバス停のベンチに座っているところを、近所の方が声をかけて保護した事例もあるそうです。

内藤さんは「バス停で1歩立ち止まって、遠くに行って歩いちゃうのを少しでも時間稼ぎできるんだったらいい嘘かな」と語っています。

認知症ケアの新しいアプローチとして注目される「バスの来ないバス停」。優しい嘘が生み出す安心と安全の輪が、今後さらに広がっていくことが期待されます。
(minto)
 

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