Netflix(ネットフリックス)の歴史と現在地、大谷翔平と共に“春”を席巻した配信旋風
日本代表「侍ジャパン」の戦いはベスト8で終戦したが、3年ぶりのWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の余熱は続く。大谷翔平のさすがの活躍と共に、今回の大会で名を馳せたのが、定額制動画配信サービスの「Netflix(ネットフリックス)」である。
市場規模は6,000億円超
情報メディアのジェムパートナーズは、定額制動画配信サービスの国内市場シェアについて、最新の数字を発表した。それによると、2025年(令和7年)の市場規模は、前年の5,262億円から大きく伸びて、6,017億円になった。5年前が3,222億円だったことからしても、わずか5年で2倍近くに成長したことになる。
「Netflix」の独走か?
そのけん引役は「Netflix」である。シェア27.1%と、前年の21.5%から数字をさらに伸ばした。7年連続のトップである。ちなみに、2位は「U-NEXT(ユーネクスト)」の17.1%、3位は「Prime Video(プライム・ビデオ)」の12.1%で、揃ってシェアを落とした。一時期は追い上げられたものの、再び「Netflix」の独走が始まったと言えそうだ。
WBC独占配信の驚き

そんな「Netflix」が、日本はもちろん、世界をあっと驚かせたのが、WBCの独占配信だった。2025年夏、全47試合を独占して配信すると発表すると、日本では「地上波テレビで観られないのか」という嘆きの声が拡がった。実は、大会の放送権料は高騰して、前回大会の5倍、150億円とも言われ、もはやテレビ局では手が出せない金額になっていた。
生中継が観られない?
大谷翔平が優勝のマウンドに仁王立ちした前回大会の決勝戦の地上波視聴率は、平日の昼間にもかかわらず、関東地区で42.4%を記録した。ここまで強い番組ソフトが、通常のテレビ放送では観ることができないことは、かつてなかったことであり、戸惑いも大きかった。2026年(令和8年)3月に、いよいよWBCの1次ラウンドが始まると、テレビ局には連日のように「中継はないのか?」「どうしたら観ることができるのか?」など問い合わせが殺到した。これによって、さらに否が応でも「Netflix」を知ることになった人も多かったことだろう。
定額制動画配信サービスとは?
定額制動画配信サービスは、英語で「SVOD=Subscription Video On Demand」(サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド)と言う。「サブスクリプション」とは、月単位や年単位で定期的に料金を払い、サービスを利用するシステムのことで、それによって映画やテレビ番組をオンラインで配信するサービスが「SVOD」である。世界で初めて、有料動画サービスを行ったのは、英国のロックバンド、ローリング・ストーンズと言われる。1994年(平成6年)に20分間のライブを、インターネットで中継した。
日本での最初は「Hulu」
やがて、日本にも「SVOD」が上陸した。日本で最初の定額制動画配信サービスを始めたのは、ミック・ジャガーらのパフォーマンスから17年後、2011年(平成23年)の「Hulu(フールー)」である。米国のテレビ局が複数で2007年に作った映像配信サービスで、月額料金を支払えば、何度でも番組を観ることができた。当時は、ゲーム機であるプレイステーション3を接続して、テレビの画面でも楽しむことができた。覚えていらっしゃる方も多いのではないだろうか。
テレビリモコンにボタン

その後、英国の「DAZN(ダゾーン)」によるスポーツ配信など、スマホ利用の拡大と共に、動画配信サービスが増える中、大きな節目が訪れた。「黒船襲来」に例える声もある。それが「Netflix」だった。もともとは米国でDVDレンタルを郵送で行っていた会社だが、「Hulu」と同じ年に動画配信サービスを始めた。2015年(平成27年)から、日本でもサービスが始まった。その頃から、家庭用テレビ受像機のリモコンにも「Netflix」などのボタンが登場し始めた。このあたりは見事な拡大戦略と言えよう。
『愛の不時着』とコロナ禍
「Netflix」が日本で一気に“市民権”を得た要因は、大きく2つある。ひとつは、2020年(令和2年)の韓国ドラマ『愛の不時着』だろう。パラグライダーによって北朝鮮に“不時着”した韓国の令嬢と、北朝鮮の将校との恋愛を描いた全16話の連続ドラマで、この配信を観るために契約した人の多さが話題になった。もうひとつは、ほぼ同じタイミングで起きた新型コロナウイルスの感染拡大である。映画館は閉鎖、家での時間が長くなる、いわゆる“巣ごもり”状態のなか、定額制動画配信サービスを利用する人の数は格段に増えた。「Netflix」のCEO(最高経営責任者)をして「Netflixは日本の日常生活の一部」とまで言わしめるようになった。
“筋書きのない物語”大人気
「Netflix」を例に、あらためて定額制動画配信サービスの内容を紹介しよう。実に魅力的なラインナップが並ぶ。直木賞作家の今村翔吾さんの小説を、岡田准一さん主演でドラマ化した『イクサガミ』。木村拓哉さん主演の警察学校が舞台のドラマ『教場』シリーズは、前後編の映画の前編は「Netflix」のみの配信となった。まず配信、そして映画館へという斬新なトライアルである。さらに、アンスクリプテッド(unscripted)すなわち“筋書きのない物語”として人気の『ラブ上等』など恋愛リアリティショー、プロデュースを担当したMEGUMIさんは「Netflix」と複数年の独占契約も結んだ。話題になる映像作品は、ことごとく「Netflix」での配信となっている。
1人が2つのサービス契約

ジェムズパートナーズの調査でも、1人当たりの利用サービス数が、前年の1.8からついに2.0に到達した。平均して、1人が2つの定額制動画配信サービスと契約している時代なのだ。もう“黒船”ではなく、“日常の定期船”である。今回のWBCによって、「Netflix」の契約者はさらに拡大したはずであり、他社も手をこまねいてはいない。市場は拡大を続けるだろう。
斬新な番組を作り出し、視聴者を感動させること。それは創成期から、ずっとテレビ局が目指してきた目標だった。それが今や「Netflix」など定額制動画配信サービスにお株を奪われてしまっている。今回のWBC独占配信は、そんな映像サービスの“現在地”を鮮明に印象づけた春となった。
【東西南北論説風(675) by CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】




