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阪神タイガースに学べ!井上竜のドラフト戦略に必要不可欠な将来ビジョン

阪神タイガースに学べ!井上竜のドラフト戦略に必要不可欠な将来ビジョン
金丸夢斗投手(C)CBCテレビ

ドラフト会議が近づいてきた。井上一樹新監督が金丸夢斗の交渉権を引き当てた興奮から1年。しかし、くじ運に喜んでいるばかりでは、逆襲に向けてのチーム作りはできない。良き見本が同じリーグにある。今季リーグ優勝した阪神タイガースである。(敬称略)

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猛虎打線は生え抜き並ぶ

セ・リーグの個人タイトルには、投打それぞれタイガースから多くの選手が名を連ねた。リーグ制覇も当然の戦力、特に打線に注目したい。ドラゴンズファンでも浮かぶ、2025年(令和7年)タイガースの打順。1番・センター近本光司、2番・セカンド中野拓夢、3番・レフト森下翔太、4番・サード佐藤輝明、そして、5番・大山悠輔、素晴らしいラインナップである。すべて生え抜きの選手であり、それは6番以降も続く。この5人の内、中野以外は、すべてドラフト1位で指名されて入団していることは特筆すべきである。

「大山って誰や?」

柳裕也投手(C)CBCテレビ

筆者が鮮明に思い出すのは、2016年(平成28年)のドラフト会議である。創価大学の右腕、田中正義(現・北海道日本ハムファイターズ)に人気が集まり、5球団が1位で指名した。他にも、投手ではドラゴンズが抽選の末に獲得した柳裕也、高校生では今井達也(現・埼玉西武ライオンズ)や藤平尚真(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)、野手では吉川尚輝(現・讀賣ジャイアンツ)らそうそうたる顔ぶれがいた。

タイガースは、こうした注目選手に見向きもせずに、単独で白鷗大学の大山悠輔を指名した。「大山って誰や?」筆者の友人の虎党ですら驚き、そして彼はこう嘆いたのだった。「タイガースにとって、今年のドラフト会議はなかったと思うことにする」。

虎党さえ驚く指名が花開く

熱狂的な阪神ファンですら予想し得なかった1位指名だった。実際、内野手では吉川、さらにドラゴンズが2位で指名した日本大学の京田陽太(現・横浜DeNAベイスターズ)の方が“全国区”だった。京田は翌年のルーキーイヤーに、ショートのスタメンとして活躍して、新人王まで獲得している。

そんな彼らではなく大山を指名したタイガース。しかし、その戦略が間違っていなかったことは、その後の大山の歩みを見れば分かる。リーグ優勝した今季、大山は5番に座り勝負強いバッティングを見せ、打点はリーグ3位、出塁率もリーグ2位と活躍した。佐藤輝明がホームランと打点の2冠に輝いたのも、すぐ後に大山がどっしりと構えていたことが大きい。

ドラフト1位の野手が続々

根尾昂投手(C)CBCテレビ

2年後の2018年(平成30年)ドラフトは、根尾昂と藤原恭大(現・千葉ロッテマリーンズ)の大阪桐蔭高校コンビ、そして、報徳学園高校の小園海斗(現・広島東洋カープ)の高校生野手3人に注目が集まった。ドラゴンズは就任したばかりの与田剛監督が4球団競合の根尾の交渉権を獲得した。岐阜県飛騨市出身で、甲子園のスター選手だった根尾の入団は、竜党だけでなく東海地方が大いに沸いた。タイガースは1位指名で、小園、そして辰己涼介(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)とくじに連敗して、大阪ガスの近本光司を獲得した。この時も「近本って誰や?」という虎党の嘆き、そして、根尾を獲得したドラゴンズに対する羨望があったことを思い出す。

しかし、その後の近本の活躍は言うに及ばず、である。タイガースは2020年(令和2年)と2022年(令和4年)と、それぞれ1位指名で佐藤輝明と森下翔太を獲得していく。それが見事に結実した今季の優勝打線なのだ。

竜のドラフトにビジョンは?

藤嶋健人投手(C)CBCテレビ

ドラゴンズはどうだろうか。タイガースが大山を指名したドラフトでは、1位で柳、2位で京田を獲得した。5位では藤嶋健人が入団し、成果の出たドラフトだったと言えよう。しかし、翌年からの1位は、鈴木博志(現・オリックス・バファローズ)、根尾昂、石川昂弥と続く。タイガースが佐藤輝を獲得したドラフトは、高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)の単独指名に成功したが、森下の2022年(令和4年)は仲地礼亜、翌年は草加勝である。

2022年ドラフトでは、育成1位で松山晋也を獲得するという、スカウト陣の“大ヒット”もあったが、一方で、前年には、ブライト健太ら右打ちの大学生外野手を3人も獲得していたり、立浪和義前監督時代には“余りあるほどの”内野手を続々と獲得したり、ファンから見ても「行き当たりばったり」の感は否めなかった。そして今季、タイガースは優勝、ドラゴンズは3年連続の最下位を脱したとはいえ、4位にとどまった。

監督でなく球団フロント

ホームランウイング(仮称)(C)CBCテレビ

結論は“自明の理”である。ドラフト指名は、球団フロント主導の下、3年後、5年後、そして10年後のチーム編成を考えて決めるべきなのである。時の監督は、まず翌年のことを考える。それは自らの契約期間を考えても「結果を出す」ために仕方のないことだろう。かつて2期11年にわたってドラゴンズを率いた星野仙一さんは、スカウトの意見に耳を傾けて、獲得した若い選手に次々とチャンスを与えて育てていった。それが珍しいケースであってはいけないのである。その時の“チームの将”である監督の意見は参考にしても、指名選手は任期のある現場監督ではなく、フロントが決めていくことが肝要なのだ。

12球団で最もクライマックスシリーズ出場から遠ざかっているドラゴンズ。来季は本拠地にホームランウイング(仮称)が新設され、さらにその翌年からはセ・リーグでも指名打者制(DH制)が導入となる。竜の野球も大きく変わる。リーグ覇者のタイガースに負けない、球団の将来ビジョンと編成力を見せるドラフト会議であってほしい。
                     
    
                     【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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