『投げるってなったら自分が一番だぞって気持ちでこの1年間過ごせよ』草加勝のリハビリを支えた時代を超える言葉

「とある妄想しがちなファンのドラゴンズ見聞録」
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム
草加勝投手と言えば、ストレートの質と制球、変化球の多彩さを武器に亜細亜大学出身で戦国東都と呼ばれる群雄割拠のリーグを戦い、日米大学野球選手権大会で日本代表にも選ばれた投手だ。華々しい経歴ながら、プロ入り後すぐに右ひじ靭帯損傷のアクシデントに襲われた。今回のサンドラの特集は、そんな草加投手がリハビリ中における苦しみから、それを支えた言葉、待ちに待ったプロ発初登板について語った。それでは早速振り返る!
『ドラ1なのに何してんだ』という声の中やり抜いたハビリ生活

6月29日のファーム、阪神タイガース戦、4回を無失点に抑えた。一見「ファームの先発として『普通に』楽しみだ。」と思うであろうこの登板に至るまでに、草加投手は大きな苦労を乗り越えている。
草加投手「早く一軍で投げたいという気持ちもありますし、自分の今の力がどれだけ通用するのかを試したい気持ちもあるがまずは目の前の1試合1試合をしっかり丁寧に投げていきたいなというのが一番です。」
草加投手は2023年に、横浜DeNAベイスターズ度会隆輝選手外れ1位でドラゴンズの指名を受けた。サンドラの取材では運命の青い糸を男性リポーターと突然結ばされるという企画にも茶化す事も動じる事もなく快く受け入れ、真摯で真面目な人柄が垣間見えた。
草加投手「まずは、新人王を目指してドラゴンズの一員として自覚を持って頑張っていきたい!」
夢と希望を持って入ったプロの世界だったが、試練はキャンプインの前に訪れた。右ひじ靭帯損傷でいきなりの離脱を余儀なくされた。そしてなんと1年目で靭帯を再建するべくトミージョン手術を受ける決断に踏み切った。
草加投手「肘が悪い中でも、今まで投げてきていたのでこのままやった方が良いんじゃないかという気持ちもありましたけど立浪さんにお話しさせていただいたときに『この先長く野球を続けるんだったら手術をやった方が良い。自分にとって絶対有利だから』と声をかけていただいたんで、手術をすることにしました。」
数多くの選手が受けているトミージョン手術だが、復帰まで1年以上を要するリハビリ生活を乗り越えなければならない。それは、『ドラフト1位』という期待との大きなギャップとなった。
草加投手「『ドラ1なのに何してんだ』という声もありましたし、それは僕も申し訳ないなという気持ちはありました。他の選手が野球の話を試合がどうだったとか話している中には入れないっていうのが一番悔しかったですけど、そこは仕方ないと思ってリハビリをやっていました。」
孤独のなかで心を支えたある人の言葉とそのルーツ

生活を共にするチームメイトとすら共有できない孤独を抱えた状況の中、心を支えたのはある人の言葉だった。
草加投手「『投げるってなったら自分が一番だぞって気持ちでこの1年間過ごせよ』っていう言葉を一番最初にもらったので。それは本当に心の支えになったというか、心にその気持ちを秘めてやってました。」
その言葉を伝えたのは当時二軍のコーチだった落合英二(現二軍監督)だ。落合二軍監督もまた、草加投手と同じく東都大学リーグから再指名一位でドラゴンズへ入団し、ドラフト後に右ひじを手術。プロ一年目はリハビリ生活を耐え忍んだ。落合二軍監督は当時の経験をコーチとして草加にこう伝えた。
落合二軍監督「亡くなられた稲葉光雄コーチにかけられた言葉をそのままそっくり草加に伝えたつもりです。リハビリの期間中っていうのは周りのドラフトで入った同級生が気になるし、そこの活躍を新聞でみたりテレビを見たりとかで周りのことが気になってしまうんですけど、ひじが治って同じ舞台に上がれば絶対負けないって気持ちは持っとけって僕は言われたので、草加にも同じようなことを言いました。」
稲葉氏から落合二軍監督、そして草加投手に受け継がれた言葉は時代を超え勇気を与え続ける。
草加投手「これだけ同じ境遇の人ってなかなかいないと思うんで、落合さん自体の存在が僕の支えにもなっていましたし、僕が質問することに対して親身になって答えてくれるので、本当感謝してます。」
お守りのような言葉に支えられながらリハビリを積み重ねて、今年の沖縄キャンプで念願のプロ初ブルペン入りを果たした。その時の感覚を柔らかい表情でこう語った。
草加投手「キャッチャーを座らせて投げるのは、今日が初めてだったので問題なくピッチングができたのは嬉しかったです。」
「感謝を込めて投げろ!野球を楽しめ!」温かい笑顔が溢れる初登板

そして、4月30日ファームの広島東洋カープ戦でプロ初登板を果たした。ナゴヤ球場のお客さんからは「今までお世話になった人に感謝を込めて投げろー!そして野球を楽しめ!」と待ちに待った登板に熱い激励が飛ぶ中で草加投手は投球練習を笑顔で終えた。そして試合開始とともに投げ込んだ初球、キレの良い美しいストレートは151キロを計測。緩急つけた変化球も交え、結果は三者連続三振と圧巻のピッチング。野球ができる喜びをこの上なく感じただろう。
落合二軍監督「入団してからつまらない日々ばかりだったと思うけど、今日投げていた草加の顔を見たら楽しそうに投げているのであの顔が僕には一番嬉しかった。抑えるとか打たれるとか関係なく良いマウンドだったと思います。」
二軍監督の立場もありつつ、誰よりもその心情に共感する落合英二だからこその言葉であろう。その登板の感想を、本人もまた抑えきれない溢れる笑顔でこう語った。
草加投手「肘の痛みであったり違和感はなかったんで、気持ち良くではないですけど、自分が思っている以上の力を出せるようになったのかなと。野球は好きなので、投げていて楽しかったですし、次も早く投げたいなと思います!」
ようやく見えてきた草加投手の一軍デビューの青写真はこう描かれている。
落合二軍監督「僕の中では今年シーズンが終わる頃に一軍で投げて、来年『おっ、草加がいるよ』となってくれれば良い。焦っているつもりもないし、そんなに簡単な手術でもない。段階を踏み間違えなければ必ず戦力になるっていう片鱗は見せている。」
手術で1年目を棒に振った落合二軍監督は、2年目以降は才能が開花し最優秀中継ぎ投手を獲得するなどチームの主力として優勝に貢献した。そんな明るい実績があるからこそ、焦らせずにじっくりと見守りたいという温かい視線を感じる。草加投手にもそう遠くない未来に一軍デビューの時が訪れるだろう。幾多の苦しみを糧としたエネルギーを解き放って投げる一球は、心から野球を楽しむ彼の魂が映し出されるだろう。苦難を乗り越え掴んだ、純粋な喜びのピッチングを見せてほしい。
澤村桃