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お立ち台でいつも『真ん中真っ直ぐ』と答えるはずの三冠王落合博満が、興奮した夜

お立ち台でいつも『真ん中真っ直ぐ』と答えるはずの三冠王落合博満が、興奮した夜

『打ったのは、真ん中ストレート』
巨人斎藤雅樹投手のノーヒットノーラン達成の夢を打ち砕く、サヨナラ3ランホームランを放った落合博満選手のお立ち台での言葉です。

1989年8月12日、灼熱のナゴヤ球場でのナイトゲームは、速いテンポで試合が進み、3対0で巨人リードの土壇場9回裏ワンアウト、大記録まで、あとアウト2つ。打席には、音重鎮選手。

『代打の音、内角を打ったー、ライト線、初ヒットになった。』

これで試合の流れが変わります。川又選手が四球、仁村徹選手にタイムリーが出て、斎藤投手は、もはや別人。
打席には、4番落合選手。

『二球目を打った、打球はセンターへ、クロマティー下がる、見上げた、入ったホームラーン、落合、第20号、サヨナラ逆転のスリーラン。』

斎藤投手にとって、天国から地獄。ただ彼は、この年すでに15勝2敗という抜群の成績、この悪夢があっても、シーズン20勝を挙げたということからも、この試合の駆け引きの凄さが思い出されます。

超一流同士のこの土壇場対決には、伏線がありました。この日の二打席は、斎藤投手の速球に、いずれもポップフライ。それをふまえ、中尾捕手は最後の打席でも、速球で押せるという狙いがあったそうです。

そこで投じられたのが、落合選手自身が語る『真ん中真っ直ぐ。斎藤のストレートはいつもより速かったけど、そんなに合わないわけじゃなかった。』

いつもより饒舌な殊勲の落合選手。珍しく興奮を露わに。そもそも、あれだけ多くの活躍の彼が、ヒーローインタビューに応じること自体が希少でした。

『真ん中真っ直ぐ』という言葉選び

落合選手は、当時、試合中のホームラン談話やシーズンオフのインタビューなど、いつ何時も、『真ん中真っ直ぐ』というコメントを繰り返しました。本音を明かさず、次の対戦への材料にさせたくないという駆け引きです。安売りして何の得があろうか、プロフェッショナルの神髄を観ました。

この駆け引き、投手と打者の間の取り合いについて、11月28日放送CBCラジオ『ドラ魂KING』の「憲伸流、プロ野球観戦術」で、川上憲伸さんに伝授いただきました。

『一流のピッチャーは、自分の間を持っている。岩瀬さんならマウンドの周りで汗をぬぐったり、ロジンバッグに触れたり。山本昌さんなら、体のいろんな部分をペロペロ舐めながら。

スタンド観戦されると分かるのは、しぐさで言うなら、気合入り過ぎてきてるなあと感じるのは、前のめりになってきて、マウンドより前に出てボールを受け取る姿、ちょっと弱気になってるなあというのは、投手板の後ろでボールをもらい始める』

じゃあ逆に、この投手は自分のペースに入ってきたなあと見えるのは?

『それは、マウンドから後ろを振り向いて、野手に向かって指差し確認をジェスチャー付きでやりだすと、その投手はもう、試合を牛耳ってますね。王様の域です。

それと、間というのは、例えば打者の一本足のタイミングを崩すため、モーションに変化をつけてやろうなどというのとは違います。はっきり言って、一流選手はやりません。B級投手です。

一流同士の対決とは、動きの駆け引きではありません。お互い、餌まきといいますか、ウソに付き合う、読み合うのが醍醐味です。内角へ行くぞと見せかける仕掛け、ボクなら外角カットボールがあるといっても、そのまま一流打者に投げたら、カポーンといかれちゃいます。そこに投げそうで投げない面白さなんです。』

落合選手と斉藤投手の前打席からの伏線、憲伸さんのカットボールの印象付け方、どれも駆け引きの妙ですね。

【CBCアナウンサー 宮部和裕(みやべかずひろ)
CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後6時放送)ほか、ドラゴンズ戦・ボクシング・ラグビーなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込みの体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

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