川上憲伸が明かす2007年日本一の真実!4年連続2桁勝利の陰で抱いた危機感

CBCラジオ『ドラ魂キング』「川上憲伸、挑戦のキセキ」のコーナーでは川上憲伸さんのプロ野球人生を「挑戦」という切り口で掘り下げています。6月4日の放送では、2007年の日本一シーズンを振り返りました。5度目の開幕投手、4年連続2桁勝利、通算100勝の輝かしい記録の陰で、川上さんが抱いていた意外な危機感とは。聞き手は宮部和裕アナウンサーです。
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この記事をradiko(ラジコ)で聴く進化の代償
川上さんは、この年について「自分自身としては最低限の出来だった」と話します。「むちゃくちゃ全てが良かったって感じはなかったんですけど、思いのほか乗り切れたかなっていうところでした」と意外な本音を明かしました。
この年、川上さんは特に左バッターに対してのアプローチを進化させていました。ボールゾーンからストライクになる外のカットボール、スライダーのようなカットボールをうまく操れるようになったのです。
しかし、その進化には代償がありました。川上さんは「左バッターに対してのインコースのカットボールが、逆にダウンしてたんですよね」と振り返ります。
各球団は前年まで川上さんが使っていたインコースのカットボールを覚えているため、そこをマークしてきます。新たに身につけたアウトコースのカットボールに対し、インコースのカットボールは逆に精度が落ちてしまい、そこを狙われる不安を抱えながら戦っていたのです。
谷繁捕手との作戦会議
こうした課題を乗り越えるため、川上さんはフォークやカーブなどの球種を使うようになります。また食事の場などで、谷繁元信捕手と「最近ここの調子が悪い」「こうしたい」と相談を重ね、連携を深めていきました。
その結果がクライマックスシリーズでの阪神タイガース戦や読売ジャイアンツ戦での好投につながったそうです。
そして、北海道日本ハムファイターズとの日本シリーズ初戦。結果は負けてしまいましたが、川上さんは印象的なピッチングを見せました。
初回、フェルナンド・セギノール選手に3ランホームランを浴びて先制を許しましたが、「それ以降はいろいろ配球を変えたりして。結局、“完投負け”みたいになったんですかね」と振り返る川上さん。
8イニングを投げて2安打という内容は、日本シリーズ最少安打タイ記録でした。
新たな攻めのパターンを確立
この試合での変化について、川上さんは「ここに投げれば打たれない」という確信を得ました。それまでのがっつく投球から、丁寧で出力を下げる投球スタイルに変えたのです。
球場の大きさも考慮し、ストレートは目いっぱいいく、腕を振っていくといった投球から、コントロールとタイミングをずらすことを重視したといいます。
インコースを見せ球にしたり、左バッターは懐に飛び込ませ、意識させてからアウトコースのシュートで勝負。右バッターにはアウトコースのカットボールやストレートをギリギリのストライクゾーンに投げ込み、インコースはボールゾーンに逃がす攻めを確立しました。
川上さんは「対9人に対して同じパターンでいけるようになったのが、僕の中でハマった」と語ります。
チーム全体への戦術伝達
負けはしたものの、谷繁捕手が川上さんの球威や調子を的確に把握してくれていたことへの信頼も感じていました。
シーズン中、先発投手は通常翌日のミーティングに出席しませんが、日本シリーズでは経験を後続の投手陣に伝える必要がありました。川上さんは「こういう攻めをすれば、ほぼ抑えられる」という攻略法を伝えたといいます。
宮部によると、谷繁捕手はこの戦術について「大いにバッテリーとしては参考になった」と語っていたそうです。インコースを生かしてのアウトコースの低めの変化球という攻めのパターン化が、チーム全体の財産となったのです。
パリーグ首位打者を完全攻略
その効果は数字にも表れました。この年のパリーグ首位打者だった稲葉篤紀選手を、日本シリーズ5試合で1安打に抑えたのです。
稲葉選手はもともとインコース打ちが得意で、インローもホームランにできるバッターでした。従来はインコースを厳しい強いストレートで攻めていましたが、戦術を次のように変えました。
インコースをボール気味に投げ、手を出させてもヒットにならない、バットがへし折れるくらいの当たりにとどめます。そして真ん中周辺のスライダーや真ん中下のフォーク、アウトローのシュート系で勝負するパターンを確立しました。
セギノール選手に対しても同様の攻めが効果的だったといいます。
落合博満監督は、この日本シリーズの初戦後「いい材料」と語っていたそうです。川上さんは「1敗はしましたけど、それ以上にしっかり得られたものはあったと思いますね」と振り返りました。
エースとしての責任と危機感
2007年の中日ドラゴンズは、リーグ優勝とはなりませんでしたが、クライマックスシリーズを駆け上がって日本一になりました。川上さんは4年連続2桁勝利で通算100勝を達成し、個人の記録も目白押しでした。
外から見れば充実の大エースでしたが、胸の内では伝家の宝刀カットボールの鋭さや、インコースへのコントロールに危機感を抱いていました。
若い頃の“階段を一段一段上がる”ような挑戦とは質が異なり、自分の中の成熟や充実を積み上げていく挑戦へと意味合いが変わってきていたのです。
日本一という最高の結果の陰には、高いレベルで戦い続けるプロとしての川上憲伸の真摯な姿勢がありました。
(minto)
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