井上竜2025年の熱いベストゲームを選んでみた!細川?金丸?それとも?
年の瀬も押し迫って来た。中日ドラゴンズは、またもポストシーズンの戦いに進むことはできなかった。井上一樹新監督が率いた2025年(令和7年)シーズンは、それでもファンの心に残る試合が多かったと思う。竜党のひとりとして、ベストゲーム3試合を選んでみた。(敬称略)
チームを去った守護神が相手
難攻不落と言われたライデル・マルティネスを、細川成也の一撃が打ち砕いた。すでに猛暑が到来していた7月9日、讀賣ジャイアンツとの東北シリーズ、福島でのゲームだった。前日の山形でのゲームでは、ルーキー金丸夢斗が7イニング2失点と好投し、待望のプロ初勝利かと思われた。しかし、リリーフが打たれて手痛い敗戦。借金は11に膨らみ、そんな嫌なムードの中、この試合も0対2とリードされたまま、9回表を迎えていた。マウンドには「優勝するチームで投げたい」という言葉と共に、巨人へ去った元・同僚が立っていた。この試合前まで26セーブ、宿敵であるものの絶対的な守護神だった。
細川がマルティネスを打ち砕く

冷静に考えても、応援する側として、かなりの確率で負けを覚悟していた。しかし、岡林勇希と辻本倫太郎の連続ヒットなどで、2死2、3塁のチャンスがやって来て、打席には4番の細川が入った。マルティネスは、ドラゴンズ時代からランナーが出た時の投球に、何かしらの隙ができる。それに一縷の望みを託して見守ったフルカウントからの7球目、細川のバット一閃、打球は東北のドラゴンズファンが待つ、レフトスタンドに飛び込んだ。逆転3ラン、それも、マルティネスからである。3対2の逆転勝ち。この勝利で「今シーズンはもう終わってもいいかな」とまで思った、実に満足できる劇的な勝利だった。
金丸の10度目の正直

2つ目のゲームは、この東北シリーズでも初勝利を逃した金丸夢斗が、ついにプロ入りして初めてのウイニングボールを手にした、8月7日のバンテリンドームである。ふと予感がして、数日前に5階のパノラマ席で残っていた1席のチケットを購入した。金丸は5月の初先発以来、9度にわたる先発で好投しながらも勝ちに恵まれなかった。この日は、首位を独走する阪神タイガースが相手だったが、金丸が見せている安定した投球ならば、決して怖くはないと投球を見守った。
記念すべき黄金ルーキーの夜

この夜のドラゴンズ打線は、金丸と同じルーキー左腕の伊原陵人を打ちまくった。1番に起用されたブライト健太が4安打、今は退団したが助っ人のマイケル・チェイビスが弾丸ライナーのホームランなど、取りも取ったり8得点。金丸は8イニングを3失点にまとめて、その瞬間を待った。勝利が決まった時、ドームの大型ビジョンには、ベンチ前で嬉しそうな笑顔を見せる金丸のアップが映し出された。本拠地ということもあり、ドームはお祝いムード一色に包まれて、近い将来のエース“初めの一歩”を拍手と共に見守った。歴史的とも言える瞬間に立ち会えたことが、ファンとしては喜びだった。
大野が痛恨の初回3失点

3つ目のゲームも、スタンドで観戦していた。7月29日、バンテリンドームの讀賣ジャイアンツ戦。今季よみがえったベテラン大野雄大が先発だった。ところが、初回に先頭の丸佳浩にセンター前ヒットを許すと、ランナー2人を置いて、4番のトレイ・キャベッジに先制の3ランホームランを打たれた。初回の大量失点は、応援する側にも堪える。さすがに初回早々に球場外の居酒屋に駆け込むわけにはいかず、つい、追加のビールを注文してしまう。しかし、その後大野が立ち直ったことから、どこか「いけるかも」という予感もした。
ボスラーが劇的な逆転弾

その予感的中は4回裏だった。1点を返した後、1死1、2塁で、5番のジェイソン・ボスラーが、ライトスタンドへ、打った瞬間にそれと分かる逆転の3ランホームラン。スタンドは狂喜乱舞だった。ホームランで取られた点を、ホームランで取り返すという、ここ数年は忘れていた試合展開だった。今季から新たにドラゴンズに加わった助っ人ボスラーは、この試合以外にも、度々勝負強い打撃を見せてくれた。試合は8対5と大逆転勝ちで、大野は6勝目を挙げた。シーズンを通して自己最多の11勝で、カムバック賞に選ばれることになる。
ワーストは藤浪への“左打線”
歓喜したゲームを3つ挙げたが、来季への教訓の思いを込めて、最も残念な試合をひとつ。それは、メジャーから日本プロ野球に復帰した横浜DeNAベイスターズの藤浪晋太郎に対しての一戦である。8月31日の横浜スタジアム、ドラゴンズは右打者へのコントロールが乱れがちの藤浪に対して、その前の対戦に続いて、左打者を並べる“奇策”打線を組んだ。前日まで好調の打順をあえて組み替えた。「死球を警戒して」との理由だったが、井上竜のスローガン「どらポジ」のポジティブ(積極的)とは言い難かった。結果はむざむざと敗戦。勝てばベイスターと入れ替わってAクラスに浮上できただけに、何とも悔いが残る試合だった。このゲームを境に、上位浮上は遠ざかっていった。チャンスは一度逃すと巡り来ない場合が多い。
ファンはそれぞれに、シーズン思い出のゲームを持っている。特に、球場での観戦は“一期一会”の貴重な機会でもある。球団創設90周年を迎える来季は、ベストゲームをどう選ぶか、迷ってしまうほどの熱い戦いを、数多く見せてほしいと願う。
さて、井上竜の1年目、あなたの思い出のゲームは何ですか?
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)ほか。










