老舗デパートは、なぜ低迷を続ける中日ドラゴンズを“選んだ”のか?

名古屋駅にあるジェイアール名古屋タカシマヤ、店内に入ったすぐの場所に、2025年(令和7年)から、ある神社がお目見えした。その名も「びくとりぃ神社」。中日ドラゴンズの必勝を祈る神社である。
大人気の「激闘の軌跡展」

猛暑の中、ドラゴンズ一色の会場には、連日、開店と同時に大勢の人が詰めかけた。ジェイアール名古屋タカシマヤで8月6日から18日まで開催された、中日ドラゴンズ「激闘の軌跡展」である。会場には、過去9回のリーグ優勝と2回の日本一を中心にした名場面の写真パネルが100点余り、さらに、懐かしい新聞紙面やユニホームなども展示された。高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)投手の実際の投球をVR動画で体験できるコーナーも、大きな話題になった。
ゴールドスポンサーの選択
中日ドラゴンズは、オフィシャル・パートナーやオフィシャル・ゴールドスポンサーなど、地元企業を中心にして、契約を結んでいる。この内、現在15社あるゴールドスポンサーに、2025年から加わったのがジェイアール名古屋タカシマヤだった。デパートとしては第1号である。1831年(天保2年)に京都で創業した老舗デパートの高島屋だが、名古屋ではまだ25年と歴史は浅い。松坂屋など古い歴史と伝統を持つデパートが他にもある中、なぜ真っ先にドラゴンズとのコラボレーションを選んだのだろうか?
ドラゴンズ89年の歴史に学ぶ

「89年の歴史に学びたいからです」。販売促進部マネージャーの川北肇さんは語る。名古屋での開業25周年を迎えたものの、他のデパートに比べて、まだまだ地元のお客さんの支持が足りないと考えていたと言う。そんな時に脳裏に浮かんだのがドラゴンズだった。
「89年間も地元に愛されている、熱狂的な球団があるじゃないか!」
タカシマヤとして大切にしている地元への“感謝”そして“結びつき”を、プロ野球チームのドラゴンズに重ね合わせた決断だった。
ファンとして手作りの展示会

「名古屋と言えばドラゴンズ」と語る川北さんは名古屋市出身、中学時代からの熱烈なドラゴンズファンである。今回の「激闘の軌跡展」は、企画の立案、球団との交渉、そして展示するパネル写真の選択まで、すべて自分で担当したと言う。写真の説明キャプションもすべて自分で書き上げた。まさに“竜党として”手作りの展示会だった。そんな川北さんの熱い思いに呼応するように、会場を訪れた人の数は、主催したタカシマヤ側の予想を上回るものだった。
若い女性ファンの新たな波

特に目立ったのが“若い層”そして“女性”だった。今シーズン、本拠地のバンテリンドームの観客数が伸びている。昨年よりも4試合早く、観客動員数が200万人を突破したが、その要因のひとつが、若い女性の観客増である。イベント会場でも、高橋宏斗投手や田中幹也選手の等身大パネルと記念写真を撮影できるコーナーに行列ができ、“推し”の選手のグッズを買う女性たちが多かったそうだ。令和のドラゴンズを応援する新たなファン層の形が浮き彫りになったのが、この夏の「激闘の軌跡展」でもあったと言えよう。
優勝セールが待ち遠しい

悩ましいこともある。プロ野球チーム、そしてデパートとなると、すぐに思い浮かぶのが「優勝セール」である。ところがドラゴンズは、落合博満監督が連覇を果たした2011年(平成23年)を最後に、リーグ優勝からも遠ざかっている。優勝セールを実施するノウハウも継承できなくなりそうという、心配の声もデパートの担当者から聞いた。阪神タイガースが独走する今季のリーグ優勝は厳しいが、クライマックスシリーズに出場すれば、日本一の可能性はある。川北さんからの口からも「下剋上」という言葉が飛び出した。
この夏の「激闘の軌跡展」のようなイベントは、続けていかなければ意味がないと、川北さんは語る。ファンの応援も同じ、監督が代わろうが、選手が入れ替わろうが、それは脈々と続いていく。ドラゴンズの選手たちは、そんな熱い応援をしっかりと受け止めて、残り少なくなったシーズン、悔いのない戦いをしてほしいと願う。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。