特性を直すのではなくより、環境を整える——親子が「笑顔」で過ごすための母の知恵
ロールモデルではなく、身近な「隣の女性」が持つリアルな本音を取材・発信することで、「今」を生きる女性たちを応援したい――。 そんな思いから、CBCテレビは「me:tone編集部」を立ち上げました。
前半の記事では、最重度の知的障害がありながら画家として活躍する奥山優(おくやま ゆう)さんと、母・美紀世さんを取材し、「子育ての苦労に飲み込まれない視点」をお届けしました。
後半の記事では、子どもの「得意」を伸ばすために、日々どんな関わりを重ねてきたのかを、より具体的に紐解いていきます。
優さんには「手にほんの少しでも絵の具がつくと、その日はもう絵を描かない」という強いこだわりがあります。忙しい状況のなかで絵を描く手を止めてしまったら、親の側が焦ったり、つい強い言葉をかけてしまいそうになる場面です。しかし、美紀世さんは冷静になって知恵を絞り、笑顔で乗り越えてきました。
この記事では、美紀世さんが実践してきた子育ての工夫を紹介しながら、子育てに悩む保護者の方に届けたい、具体的な4つのアドバイスをお伝えします。
得意を伸ばすために大切にしてきたこと

美紀世さんは、「優くんの小さな成長を見つけて、楽しむようにしてきました」と話します。
例えば、お箸でご飯を食べられたときには、「すごいね!」と声をかけ、一緒に喜ぶ。優くんが楽しそうに歌っていれば、一緒に歌ったり踊ったりする。そうした日々の積み重ねのなかで、小さな幸せを少しずつ増やしていったと言います。
美紀世さんが、優さんに対して怒ることはほとんどありません。
「私が怒ったら、優くんがパニックになるだけです。優くんが過ごしやすい環境をつくることが、私も過ごしやすくなる。私は、優くんが笑顔でいてくれれば、それでいいんです」と語ります。
優さんには、「絵の具が少しでも手につくと、その日はもう描かない」という強いこだわりがあります。多くの親であれば、「わがままを言わないで」と叱ってしまいそうな場面ですが、美紀世さんは違いました。
「手が汚れるのが嫌なら、乾くのを待てばいい。その間に別の絵を描けばいいんです」
そう考え、美紀世さんは常に3枚ほどのキャンバスを並べ、同時に描き進めるスタイルを提案しました。
「本人の特性を直そうとするのではなく、その特性のままで進める環境を整える」
この発想の転換こそが、親子が無理なく、笑顔で過ごすための秘訣だったと言います。
美紀世さんが大切にしてきたのは、優さんが笑顔でいること、そして「絵を描きたい」という気持ちに寄り添うことでした。現在の活躍も、その延長線上にあるものだと受け止めています。
「優くんの絵の才能を『すごいね!』って褒めてもらうことが多くなりましたが、私にとって優くんは、たとえ絵が描けなかったとしても大事な子。笑顔でいてくれれば、それでいいんです」
その言葉には、一貫した母の思いが込められていました。
これからの夢、そして子育てに悩む保護者へ今伝えたいこと

現在26歳になった優さん。美紀世さんの次なる目標は、この活動をさらに全国へと広げていくことです。
「いつでも望んだ時に、全国のどこでも個展が開けるようになりたいです。そして、優くんのグッズだと知らずに手に取った人が、その明るい色で元気になってくれたら、それが一番嬉しいですね」と語ります。
これまで多くの苦労を乗り越えてきた美紀世さんだからこそ、日々の子育てに悩み、葛藤している保護者の方々へ、今伝えたい思いがあります。それが次の4つのアドバイスです。
① 子どもが興味を示したことに、とことん付き合ってみること
動物が好きなら、動物園へ連れて行ったり、動物図鑑をそろえたり、実際に動物と触れ合う機会をつくる。選択肢をたくさん用意することで、子どもはその中から自分の「好き」を選べるようになると言います。
たとえ図鑑を買ってまったく見なかったとしても、「時間やお金が無駄だった」とは考えない。選択肢を増やすこと自体に意味があると、美紀世さんは話します。
② 子どもの夢を、一緒に楽しむこと
子どもが「歌手になりたい」と言ったら、親が一番のファンになって応援する。そして、歌手になるためには何が必要かを一緒に考える。その過程が、子どもが夢を思い描く力につながっていくのではないかといいます。
③ つらいことは、誰かに相談すること
美紀世さんのSNSには、子育てに悩む保護者からの相談が数多く寄せられています。身近な人でも、主治医でも、SNSで知り合った人でも構いません。誰かに話すことで、新たな視点を持てるようになると感じています。
④ 他者の協力を得てでも、自身の体を休める時間を確保すること
睡眠障害のある優さんとの生活では、眠れない日が続くことも少なくありませんでした。そのため、金曜から日曜にかけては実家に戻り、美紀世さんのお母様の協力を得て、金曜と土曜の夜はしっかり眠る時間を確保していました。ヘルパーなど行政の制度も積極的に活用し、支えがあったからこそ、つらい時期を乗り越えられたと言います。
まるで美紀世さんの心が映し出されているかのような、優さんのカラフルな絵。
その作品は、どんな色も否定せず、楽しむことの大切さを私たちに教えてくれます。
子育てに疲れたときは、お子さんの「できていること」を、ひとつだけ見つけてみてください。
そして、その小さな一歩を一緒に喜んでみませんか。
そこから、親子の「カラフルな物語」が始まるのかもしれません。

奥山優(おくやま ゆう)
1999年生まれ。自閉スペクトラム障害と最重度知的障害のある、 愛知県小牧市在住のアーティスト。幼い頃から動物をメインモチーフに絵を描き、近年はアクリル絵の具でカラフルな作品を生み出している。第3回こまきアールブリュット展にて小牧市長賞を受賞するなど、受賞歴多数。 複数の企業とコラボし、絵を商品化。愛知県内の学校などに絵本を寄贈する社会貢献活動もしている。
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