子どもの「好き」を信じ続けた母が見た景色――障害のある息子の得意を伸ばした、しなやかな子育て
子育てには正解がないからこそ、日々迷い、葛藤するもの。「子どもが得意なことを伸ばしてあげたい」と思っていても、ついできないことに目が向いてしまうことも少なくありません。
今回は、画家として活躍する奥山優(おくやま ゆう)さんと、お母様の美紀世さんを取材しました。優さんは最重度の知的障害がありますが、美紀世さんのサポートのもとで絵を描く力を伸ばし、現在は9社の会社と契約を結び、画家として活動しています。
ロールモデルではなく、身近な「隣の女性」が持つリアルな本音を取材することで、「今」を生きる女性たちを応援したい――。 そんな思いから、CBCテレビは「me:tone編集部」を立ち上げました。
美紀世さんは、どのような思いでで優さんに寄り添い、その得意な力を伸ばしてきたのでしょうか。
カラフルな絵で人を惹きつける、現在の活動

奥山優さんの描く絵は、現実の枠を軽やかに超えるカラフルな色使いが特徴です。見る人の気持ちを自然と明るくしてくれる、不思議な魅力にあふれています。
幼い頃から絵を描くのが好きだった優さん。趣味として描いていた絵が世に出るきっかけとなったのは、通っている障害者生活介護施設のスタッフからの「優くんは絵が上手だから、作品展に出品してみたら?」という一言でした。2020年、小牧市主催の障害者作品展「こまきアールブリュット展」に初出品し入賞。翌年には市長賞を受賞します。この頃から、優さんの独特な世界観が注目を集め、企業から声がかかるようになりました。
2022年5月に初めて個展を開催した際には、展示した作品がすべて完売。その後も注文が途切れることなく続き、現在は数カ月待ちの状態が続いています。活動の幅はさらに広がり、優さんの絵を使ったさまざまなオリジナルグッズが販売されるほか、名古屋市内を走るラッピングバスや、小牧市のふるさと納税の返礼品などにも作品が採用されています。

また、優さんの活動は「作品を販売すること」だけにとどまりません。近年は、愛知県や小牧市への作品寄贈をはじめ、障害児入所施設や児童発達支援センター、特別支援学校など、多くの施設へ絵本の寄贈も行ってきました。

美紀世さんはこう話します。
「障害があるから助けてもらうばかり、という考え方は違うんじゃないかなと思って。優くんにも、社会に貢献できることがあるんじゃないかと感じたのがきっかけです」
優さんの絵は、描く人の思いとともに、地域や社会にやさしい彩りを添え続けています。
絵と出会い、夢が生まれた幼少期
優さんが絵を描き始めたのは、3歳の頃でした。
保育園で落ち着いて過ごせるようにと、美紀世さんが絵を教え始めたといいます。
当初は◯・△・▢といった簡単な形さえ描くことが難しい状態でした。美紀世さんは優さんと一緒にペンを持ち、まずは◯を描くことからスタート。絵かき歌を描いて見せるなど、楽しみながら絵に親しめる工夫を重ねていきました。
同時に、「さまざまなものに興味を持ってほしい」という思いから、週に2回は東山動物園、週に1回は名古屋港水族館へ足を運びました。その経験を通して、優さんは次第に生き物に強い関心を示すようになります。
お絵かきと生き物への興味が結びつき、優さんは動物を描くようになりました。ライオンやイルカ、シャチなど大きな生き物が中心だったといいます。
小学校に上がる前には、毎日らくがき帳を3冊使い切るほど、絵を描くことに夢中に。美紀世さんは、優さんの「好き」という気持ちを大切にしたいと考え、ホワイトボードや模造紙、スケッチブック、ペン、クレヨン、色鉛筆など、表現の選択肢を数多く用意し続けました。
小学校では、先生が優さんの絵を見て「いつか絵が売れて、絵かきさんって呼ばれるようになるかもしれないね」と声をかけたことがありました。その言葉を聞いたとき、美紀世さんは「そんなことはできるわけがない」と感じていたそうですが、優さんの心には強く残ったようです。小学校の卒業文集には「えかきさんになって、たくさんのえをかきたいです」と書かれていました。

その夢が大きく動き出すきっかけとなったのが、父・敏行さんの遺言でした。2019年、がんで他界した敏行さんは、亡くなる直前に「優の絵をなんとか世の中に出してやってくれ」という言葉を遺します。
美紀世さんはこう振り返ります。「あの時の言葉がなかったら、今の活動はありません。優くんの幼い頃の夢と、夫の遺志を背負い、優くんの絵を世に出すことが、私の夢となりました」
子育ての苦労に飲み込まれない考え方

優さんが大好きなお絵かきを、幼少期から現在まで支え続けてきた美紀世さん。取材中も常に穏やかな笑顔で、前向きな言葉が印象的でした。一見すると、子育てに大きな苦労があったとは感じさせない明るさがあります。
「子育てで大変だったことは何ですか?」と尋ねると、
美紀世さんは少し笑いながら、こう答えました。
「逆に、大変ではなかったことが思いつかないぐらい、すべてが大変でした」
医師から「優くんには重度の知的障害がある」と告げられたときは、大きなショックを受けたといいます。その日から1カ月ほどは外出もできず、”障害”という言葉を口にするたびに涙があふれました。
優さんには睡眠障害もあり、昼夜を問わず動き回るため、片時も目を離せない状態が続きました。体力的にも精神的にも、限界を感じる日々だったそうです。
そんな中で出会ったのが、同じ境遇にある一人の母親でした。
障害のことを冗談交じりに、笑いながら話すその姿に、大きな衝撃を受けたといいます。
「10年経ったら、あなたも笑って話せるようになるわよ」
と声をかけられ、そのときは半信半疑だったものの、
「同じ苦労をするなら、少しでも笑顔で過ごしたい」と思うようになりました。
つらくて、もう我慢できないと感じたときには、自分自身に
『今日が人生の最後の日だったら、どうするだろう』
と問いかけるようにしたそうです。
『もし明日、優くんと会えなくなると仮定したら、今日するべきことは何か?』。
その問いを胸に、どんな状況でも心のどこかで冷静さを保つことを意識してきたといいます。
後編では、美紀世さんが優さんの「得意」を伸ばすために実践してきたことや、子育てに悩む保護者の気持ちが少し軽くなるような具体的なアドバイスをお届けします。
奥山優(おくやま ゆう)
1999年生まれ。自閉スペクトラム障害と最重度知的障害のある、 愛知県小牧市在住のアーティスト。幼い頃から動物をメインモチーフに絵を描き、近年はアクリル絵の具でカラフルな作品を生み出している。第3回こまきアールブリュット展にて小牧市長賞を受賞するなど、受賞歴多数。 複数の企業とコラボし、絵を商品化。愛知県内の学校などに絵本を寄贈する社会貢献活動もしている。
番組紹介
働く女性のリアルな声を届けるWEBメディア『me:tone』。
名古屋を起点に、座談会や美容・キャリア・お金の話題まで、身近で共感できる情報を発信し、女性たちの「今」を応援します。
共感と気づきで毎日を前向きに。毎週不定期で更新。



