ボクシング世界最速三階級王者 田中恒成 戦いの軌跡 詳しくはこちら
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SOUL FIGHTING

ボクシング世界最速三階級王者
田中恒成 戦いの軌跡

2019年3月16日 WBO世界フライ級防衛戦 vs田口良一

2019.08.15

田中、田口も下す

 一度流れて実現した今回の対決、燃える要素に事欠かないのは青のコーナーの田口だった。再起していきなり1階級上げての挑戦、そして挑むチャンピオンがあの田中。不利の予想も発奮材料になったはず。こういうときの田口は何かやるのではないか。物静かだが芯の強い性格をファンも知っているから、岐阜の会場に足を運んだのだ。
 一方の田中は花道の声援にグローブでポンと応えて軽快にリングイン。お気に入りのグリーン地の衣装にこれでもかと「The Fate(宿命)」、これは試合のキャッチフレーズだった。
 「やるべくしてやる試合。普通の試合で終わらせるつもりはない。というか普通の試合にはならない」
 戦前田中も決然と語って、この日本人対決のムードは大いに高まった。
 5500人観衆が見守る中でゴングが鳴った。先に試合にかける意思を示したのが挑戦者だ。田中の左リードにいきなり右クロスを振り抜いた。直撃弾とはならず、したがってヤマ場というほどのシーンではないが、戦闘開始を告げるのに十分な一振り。
 これを外した田中は表情を変えずすぐさま左ジャブで切り崩しにかかる。田口の奇襲に動じないどころか、テンションの高い攻防で返すこちらも最初から集中力がみなぎっている。
 田口はジャブから田中に引っ付いてアッパーをこつこつと打ち続けた。調子に乗らせたくない田中は見計らってすばやく打ち返すとサイドポジションを取り、連続的に攻撃。2回早くもペースを引き寄せ始めたかに思えたが、終了前に田口もワンツー、スリーで反撃する。
 そして3回開始早々、挑戦者の右フックが田中のテンプルに決まってダウン寸前に陥れる。ここまでも両雄の熾烈なやり取りはあったが、「静けさを破った」と表現したくなるほど不意のインパクトだった。
 「いいパンチだったから、一瞬のダメージはあった」
 打たれたチャンピオンもそう認める一撃だった。しかしブロックとダッキングで田口の追撃をかわすとダメージから回復した田中は再びステップを踏む。相手の右ストレートをかわして左ボディーのカウンター攻めで田口を逆に下がらせたのだから、相当気が強い。
 さらに4回になって田中は圧力を増した。クイックな右ストレート、飛び込んで左アッパー、守勢に回らせると左ボディーと、田口の細かい手数を押さえ込む怒涛の集中砲火だ。
 意外だったのは、早くも田口に疲れがうかがえたことだ。
 田口とて、いいタイミングで手を出してはいるが、キレと威力が伴った田中のパンチに押されてしまう。少しでも下がれば、読みも鋭いチャンピオンのステップインが噛みついてくる。序盤から飛ばして田中にスリルを味わわせたが、田中のスピードと勝負し続けて想像以上に消耗していたのかもしれない。

 田中は近場でのディフェンスに余裕も出てきた。こうなると田中の自在さが目に付くばかり。アングルを変えながら打ち込むパンチは左ジャブも強烈な印象を見る者に与えた。7回は遠めからの右ストレートで田口がのけぞり、一瞬レフェリーが走り寄った。
 田中の中盤から終盤にかけての攻めは、倒したい思いがひしひしと伝わるものだった。田口を軸にして、ワンツー、アッパー、ボディーショットとありとあらゆるパンチを繰り出す。前回の木村翔との試合よりも明らかにパワフルだ。この日はミスブローも目立ったが、これは実際に戦ってみないと分からない、とらえにくさが田口にあるということだろうか。
 「恒成が10ラウンドぐらいで倒していたらスーパースターへのスタートだった」
 田中の畑中清詞会長はちょっと残念そうだった。田中本人もKOを逃したことを悔やんでいたが、田口のタフネスとハートを称えたうえで、こう語っていた。
 「頭が当たったり、肩で押してきたりとやりづらさがあった。離れた場所では相手の出どころを見て(攻めが)できたけど、接近戦ではそうもいかない」
 田口にとって苦しい時間が続く。しかし田中のヒットに足を踏ん張ってこらえ、ピンチに歯を食いしばって反撃を試みる。11回には、挑戦者コーナーから「打ち合え!」と盛んに声がかかった。それに応えて右クロス、左ボディーフックで攻めかかる田口は、どこにそんな余力があったのかと思わせた。
 最終回の田中はなおも倒すことをあきらめていなかった。力を振り絞る田口を上回る猛烈な攻撃を浴びせた。スコアは119-109に117-111が2者の大差で田中の防衛。
 こうして振り返ると、木村戦ほど勝負のスリルはなかったかもしれないが、実績のあるベテランの意地とスタイルをしっかりと受け止め、はね返した田中の力はさすがだった。
 「いい試合になったと言いたいですが、正直、内容についてはほぼ反省点。納得がいってません」
 「やっぱり田口さんと試合をしてよかった。いま対戦しておいてよかった」
 一夜明けてのこんな感想からも、田中に一層の成長は期待できる。畑中会長によると次も防衛戦となるが、おそらく海外の挑戦者だろう。
 いずれにしろ、日本人対決ならではのさまざまな感情が交錯する世界タイトル2連戦、しかも木村、田口という強い対戦者との激闘を潜り抜けた23歳は、きっとスケールアップした姿を見せてくれるに違いない。
 試合終了のゴングが打ち鳴らされると、全精力を出した田口は田中にもたれかかる姿勢になった。
 「田口さんはそれぐらい出し切って、それぐらいの思いで立ち続けたんだと感じた。このことが一番心に残ったし勉強になった」。感性豊かな若きチャンピオンはいいことを言っていた。

(提供:BOXING BEAT)

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