ボクシング世界最速三階級王者 田中恒成 戦いの軌跡 詳しくはこちら
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SOUL FIGHTING

ボクシング世界最速三階級王者
田中恒成 戦いの軌跡

2018年9月24日 WBO世界フライ級挑戦 vs木村翔

2019.08.15

名古屋の日本人対決激闘 田中に凱歌 木村に2‐0判定で3階級制覇

 いきなり、と書いても差し支えはないと思うが、とにかく先に田中が木村のガードの上からワンツー、スリーと速射砲を放った。すばやくグッと体を近づけて左ボディー、フック、右ストレート。これだけで激闘を予感した。この試合にかける挑戦者の強い意志がこもった積極的なブローだったからだ。
 木村の守りは堅い。が、田中のハイスピードな集中打のすべてを防ぐことはできない。相手のテンションにつられたように木村が右クロスを強引にねじ込む。微妙な力みを感じさせつつ、チャンピオンもパンチを振り始めた。
 田中は接近戦のエリアにとどまり、ステップで外しては打ち返していく。その妙技に思わず見とれてしまいそうになるが、非凡な田中の次々繰り出す攻撃は観戦者にのんびり眺めることを許さない。
 2回終了間際、田中が狙って振り抜いた左フックのカウンターで木村がバランスを崩した。これは効いた。田中すかさず押し込み、ボディー、アッパーで容赦ない攻め。3回も田中は離れてよし、近づいてよしで、木村のブロックの隙間を狙った。
 序盤はおおむね挑戦者主導で差がついた。しかし田中ほどの能力をもってして飛ばしても、このままで済むはずがない、そう思わせるところに木村の計り知れない怖さがあった。

 木村は2回のダメージを抱えながらも、我慢強く反撃した。左ボディーのラッシュで田中のインファイトを鎮圧にかかり、5回になると「シャッ! シャッ!」と声を出してフックを繰り出す。精神で肉体を引っ張るかのようにして、木村があがってきた。いよいよチャンピオンと挑戦者のファイトががっちりと組み合いだした。
 「最後は気持ちだと思う」。試合前日の会見で両者は同じことを言ったものだ。ともにやれるだけの準備はしたという表情で、だからこそ言えたセリフなのだろう。計量は主催テレビ局の番組内で生中継されたが、いつもと違う段取りにナーバスになっている様子もなかった。
 「こんなに気持ちの強いチャンピオンもいません。あとはあす全力で頑張るだけ。もちろん勝つ。3階級制覇です」。田中がこう語れば、木村も、「日本人同士の頂上決戦に恥じない試合をしたい。(田中は)尊敬できる選手。もちろん僕のV3で手があがることになると思う」。
 これらはリップサービスでもなんでもなかった。お互いに自信と対戦相手への尊敬をリングに持ってあがり、素直にぶつけ合ったのだ。
 まるで終盤戦のようなパンチのラリーは続く。6回は田中もステップをやや大きく使ってチェンジ・オブ・ペース。察知した木村が攻めを強めるが、田中はスッと外し、バックステップをしながら右を合わせる芸当。あくまで主導権は譲り渡さないというアピールだ。
 ここにきて木村は右目の腫れがひどくなってきた。しかし7回、木村がカバーから繰り出した右フックが鋭く田中の頬をえぐる。ほんの一瞬の間をおいてバランスを失った田中。ネルソン主審はスリップと判断したが、あとで木村の有吉将之・青木ジム会長はこの裁定に異議を唱えた。
 木村のかける圧力はぐいぐいと強まる。これは田中が序盤ほど接近戦に付き合わなくなったことも影響しただろう。相変わらずのすばやさで動く挑戦者は、木村の左ダブルの2発目をカウンターしたり、一転近づいて右を打ち下ろしたりとかく乱。打ち続けることで調子づく木村タイプには賢明な策である。
 木村の勢いを見ればまだ終盤にヤマ場は残されていそうだった。木村の右を不用意に食らってのけぞる場面が散見する田中も、強気姿勢を崩さずただちに攻め返す。
 果たして10回以降はさながら劇画のようだった。ミスブローも構わず、ふたりが全力で右を振り合うたびに場内が興奮した。11回が終わる直前には目と目が合ってニヤリとしていた。「やるな」だったか「まだまだ」だったか。
 体の奥底から尽きることなく力がわいて出ているかのような木村は最後までガツガツと攻めたし、田中も当然とばかりに応じた。最終回、木村は左フックを豪快に空振りしてから左ボディーを連打。脚を止めて耐えていた田中だが、ラスト10秒の拍子木を合図にまたまた両者打ち合いとなって試合終了のゴングが鳴らされた。割れんばかりの喝采。
 その時、リング上で木村と抱き合った田中は「疲れたんで座っていいですか」が第一声だった。そう断ってへたり込んだ。
 発表されたスコアは114-114(トレーラー)、115-113(タプダサン)、116-112(エンエディ)の2-0で王者交代を告げていた。本誌記者の試合全般の印象は3番目の採点に近い。
 原田-ジョフレ、オリバレス-金沢、畑中-デシマ、薬師寺-辰吉など名古屋を舞台にした語り草の一戦の系譜に連なる激闘だった。

(提供:BOXING BEAT)

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