ドラゴンズ平田良介から感じた「順調のきざし」言葉と背中が発するメッセージ

ドラゴンズ平田良介から感じた「順調のきざし」言葉と背中が発するメッセージ

平田の(ニヤリ)に安心する。

『最近、お腹の調子どうですか?』

2021年、平田良介選手と最初に交わした言葉だった。
豊田市内での単独自主トレを終え、沖縄キャンプに向かう直前のことだった。うろたえる私にイタズラっぽい笑顔を見せた瞬間、(きっと、順調なんだろうな)と悟った。

平田との会話でこの感覚になったことが数回ある。

2008年9月、ナゴヤドームで行われた二軍戦で本塁打を放った彼は、一軍の練習に出てくるやいなや、

『きょう何時起きやと思います?眠いっすわぁ』とニヤリ。

この日、一軍の試合には9回代打で登場しプロ初本塁打。サヨナラで試合を決めた。シーズン序盤から好調を持続した2018年、単独インタビューをお願いした日には、

『えー、きょうのインタビュアー西村さん?マジメに喋れへんわ~』とニヤリ。

この年、最終盤まで首位打者争いを演じ、自身初のタイトルも獲得している。こちらの想像を超える素直で飾らない言葉が場を和ませ、お互いの緊張を解く。多分無意識なのだろうが、彼がそういう言動のとき、順調なんだと感じている。

平田の(ポロリ)が心に突き刺さる

「サンデードラゴンズ」©CBCテレビ

感情表現が素直。先輩でも恩師でもない私が、こんな分析をするのは失礼だ。ただ、他の場面でも、やはりそう思わずにはいられない。ヒーローインタビューという勝利の『儀式』での発言の数々にちりばめられている。
二試合連続サヨナラホームランを放った2011年。もちろん二日連続お立ち台に上がる。

一日目『あしたはデーゲームです。お酒は控えてください』
二日目『きょうはおいしいお酒を飲んで、あしたまた6時にドームに集合してください!』

サイクルヒットという離れ業を演じた後にも

『実は前の回から、ダメなんですけど、次の打席のことばっかり考えていました』

心の内をついポロリとしてしまったのだと思うが、ドームが盛り上がった瞬間だった。

「サンデードラゴンズ」より吉見一起投手の引退試合©CBCテレビ

昨季限りで引退した吉見一起さんの引退試合にも、そんなシーンがあったんだとか。吉見氏は、CBCラジオ『ドラ魂キング』で「どこで泣いていいかわからなかった」と振り返る。噛みしめたい最後の舞台は、やらなければいけないタスクも多いのだという。最後の最後、泣きながら花束を持ってきた愛息を見て、初めて涙がこぼせたという。

ただ、そのセレモニーにあって、誰よりも一番泣いていたのが平田だった。
「正直、おいおい、めっちゃ泣いてるやん」と思ったという吉見さん。
「でも、ドラフト同期なんですよ。すごく深い仲ってわけじゃなかったけど、気持ちがうれしかった。いろいろ感じてくれていたんだなぁ…って」

ついついポロリとしてしまった言葉や涙は、人の気持ちをつかんで離さない。

平田の背中が、後輩の道を照らす

「サンデードラゴンズ」©CBCテレビ

平田良介の存在は大変稀有だ。あるOBの方が言っていた言葉を思い出す。

「ドラ1の気持ちはドラ1にしかわからない。高卒ドラ1は特にね。次元が違う」

少なくともプロに入るまでは順風満帆に、挫折を知らずにプロの世界に飛び込む。ただ、そこには経験したことのない、てっぺんの見えない壁が立ちはだかる。甲子園という大舞台で1試合3本塁打という離れ業をやってのけ、「なにわの四天王」というキャッチフレーズの下、日本中の注目を集め高卒ドラフト1位でプロ入りを果たした平田。ただ、度重なるケガに苦しみ、チームが黄金時代の真っただ中だったこともあり、チームの顔となるまでに相当の時間を要している。

今季こそ一軍に定着し、レギュラーの座を掴みたい根尾昂。
二軍キャンプで思い切り絞られて今季の飛躍を期待される石川昂弥。
まずプロの洗礼を浴び、挫折を味わうかもしれない高橋宏斗。

前言のOBの言葉が真実ならば、彼らにとって平田は道しるべ。かける言葉も見せる背中も間違いなく大きいものになる。与田監督が今年のキーマンに平田の名前を挙げた。
平田にこの事をぶつけると

「競争が行われる北谷から後輩たちに背中で示したい」と言った。

ただキャンプ打ち上げの日に与田監督の口から出た外野手の名前は、岡林・滝野・ルーキー三好など、俊足を売りにした若手外野手の面々。平田の背中と、それを追う若竜たちが、チームとファンを栄光へ導いてくれる。

『かけがえのない あなたとわたしのために』

「サンデードラゴンズ」©CBCテレビ

おととし冬の契約更改で、珍しい「個人スローガン」を掲げたことを覚えているだろうか?

平田は「あなたはファンを。私は自分自身だったりチームだったりを意味する。ドラゴンズだけでは野球はできないし、ファンだけでも野球はできない。ファンとチームが一体となってシーズン通してできればいいなと思う」と説明している。

この年の年末「個人スローガンって珍しいよね?」と問いかけた私に

「別に普通のことじゃないですか?特別ですかね?」とニヤリ。

この個人スローガン、現在のコロナ禍の生活にフィットするのではないかと思う。自分一人で生きていくことはできない。良くも悪くも、いろいろな人が自分の人生にかかわっている。そして、みんなで一体となっていかないことには強敵に立ち向かえない。間違いなく、今の我々の生活を指し示している言葉だと思う。

「サンデードラゴンズ」©CBCテレビ

その新型コロナの影響で、今年の沖縄キャンプ取材は例年と違うものだった。直接話を聞くことが難しいというもどかしさを感じつつ、オフから継続する腸腰筋強化の朝トレを見、沖縄の青空に鋭い白球を飛ばす打撃練習を見、(きっと順調なんだろうな)という感覚は変わっていない。

次に言葉を交わすとき、私は聞いてみたい。

「あの個人スローガン、もちろん今年も継続だよね?」
「なんでそんなこと聞くんですか?」

と逆質問してくると想像しつつも、想定外の答えとニヤリの表情を見せてほしいと期待してしまう。後者だったとき、チームにとってもライトスタンドのファンにとってもかけがえのない背番号6を示してくれているはずだ。

【CBCアナウンサー 西村俊仁(にしむらしゅんじ)
CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週木曜午後4時放送)ほか、ドラゴンズ戦などテレビやラジオのスポーツ中継を担当。甲子園球場のそば育ったためか無類の野球好き。幼いころから俊足巧打の選手が好きな傾向があり、子どもの運動会でも順位より走るフォームが気になってしまう】

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