炊き立てごはんの味を届けたい!「パックごはん」に込めた熱き思いと開発魂

炊き立てごはんの味を届けたい!「パックごはん」に込めた熱き思いと開発魂

電子レンジで温めれば、すぐに炊き立ての美味しいご飯を食べることができる。お米を愛する日本ならではの食品が「パックごはん」である。誕生した舞台、それは全国でも有数の米どころ、新潟県だった。

「創業者・佐藤勘作さん」提供:サトウ食品株式会社

1908年(明治41年)に新潟県で生まれた佐藤勘作さんは、42歳の1950年に「佐藤勘作商店」を創業した。あんみつに入れる白玉粉の製造をしたが、それは夏にしか売れなかったため、冬はもちろん1年中売れる商品として、餅を作ることにした。

「サトウの切り餅・1973年発売」提供:サトウ食品株式会社

1973年(昭和48年)に、レトルト殺菌によって3個パックの餅を製造し、「サトウの切り餅」として発売した。1年間の長期保存もできたため大ヒットしたが、開発チームは満足していなかった。

「新潟の餅は本当に美味しい。もっと生の餅の美味しさを届けたい」。考え出されたのが“つきたての餅をパックする”「無菌化製法」だった。製造ラインはもちろん、そこで作業する人につく雑菌もシャットアウトするなど、2年の歳月をかけて工場自体を“無菌化”した。作る餅も1個ずつ包装することにした。これがシングルパックによる新たな「サトウの切り餅」の誕生だった。

「お餅伸ばし工程」提供:サトウ食品株式会社

次なる挑戦が始まる。1980年(昭和55年)には「佐藤食品工業株式会社」と社名を変えて、餅の他にも新しい商品を製造することになった。米どころの新潟、それにふさわしいものこそ、日本人の主食である「ごはん」だった。レトルト食品の「ごはん」は登場し始めていたが、新潟に本拠地を置く会社として、その味は納得できるものではなかった。「炊き立てのお米の味を届けたい」。そこで、切り餅で培った無菌化技術を活かして「パックごはん」を作ることになった。

無菌化された工場での「パックごはん」の製造、最も大切なことは、炊飯前の米を殺菌して、その後も無菌化状態を保つことだった。それによって美味しさは守られる。試行錯誤しながら、製造方法を確立した。白米の一歩手前の玄米を自分たちの手で精米する。米は一粒一粒検査して不良米を取り除く。洗った米はタンクで水に浸し、米の内部まで水分を行き渡らせる。大釜で炊いたものを小分けするのではなく、1食分ずつ分けてから炊き上げる。特に「1食分ずつ」という工程にはこだわりがあった。

「はじめチョロチョロなかパッパ」そして「ガス直火炊き」という日本伝統の炊飯方法を長さ50メートルの“炊飯ゾーン”で実現した。そこに、洗った米と水を1食分ずつ釜に入れて、およそ40分かけて通過させる。中は温度帯が分かれていて、強火になったり、余熱によって米を柔らかくしたり、まさに「家庭の炊飯器のスイッチを入れてから炊き上がる」までの工程が再現されている。これによって、一粒一粒がふっくらしたごはんに炊き上がり、お米の甘みと粘りが引き出される。蒸らした後、クリーンルームでパック容器に移され、酸化防止のため、容器内の空気を一度窒素化して包装する。「サトウの切り餅」作りで培った無菌化製法に、菌が入り込む余地はなかった。

「サトウのごはん初代・1988年発売」提供:サトウ食品株式会社

1988年(昭和63年)、世界で初めての無菌化包装の「パックごはん」が誕生した。名づけて「サトウのごはん」。日本ならではの「パックごはん」だった。賞味期限は半年、調理時間は電子レンジでわずか2分だったが、その味はパックとは思えないほど、風味豊かで美味しかった。「サトウのごはん」は、ひとり暮らしの若者や単身赴任者をターゲットに、コンビニエンスストアを中心に売り出された。しかし、コンビニで買われるのは、おにぎりや弁当などすでに主食として出来上がった商品が中心だった。そこで、主戦場をスーパーマーケットへ移した。これが大当たりだった。「ご飯を余分に炊かなくてもいい」「保存しておける」そんな便利さと美味しさから、多くの家庭の食卓で大ヒットした。毎日食べるご飯を、少しずつ「サトウのごはん」に替えていってもらいたい。そんな想いがかない、「パックごはん」がついに“日常食”になったのである。

「スーパー大麦ごはん」提供:サトウ食品株式会社

おひざ元、新潟県産コシヒカリから始まった品種も「秋田県産あきたこまち」「宮城県産ひとめぼれ」など、全国の米どころの味が次々と登場した。200グラムに加えて、食べきりしやすい一膳分の130グラム、大盛の300グラムなどサイズも豊富に増えた。2024年2月には生産ラインも増える予定で、年間4億食を生産できる体制が整うことになる。

「新潟県産コシヒカリ」提供:サトウ食品株式会社

「パックごはん」は、核家族化、高齢化、さらに個食化など、日本の社会と暮らしが変化していく中で、それを先どりしながら、食卓に美味しいご飯を届けている。「パックごはんはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“炊き立ての湯気の中”盛りつけられている。
                                   (以 上)
          
【東西南北論説風(402)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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