世界に誇る「めがねフレーム」作り~明治の北陸で始まった町ぐるみの熱き挑戦

世界に誇る「めがねフレーム」作り~明治の北陸で始まった町ぐるみの熱き挑戦

人によってはとても重要な日常の必需品が「めがね」であろう。めがねが発明されたのは、13世紀のイタリア。ベネチアのガラス細工の技術を使って、世界で最初のめがねが作られたと伝えられている。そんなめがねのフレーム作りに打ち込んで、今や世界でも名だたる産地となったのが福井県である。そんな熱き歩みを訪ねる。

めがねが日本にやって来たのは、16世紀の戦国時代。宣教師のフランシスコ・ザビエルによって持ち込まれた。ザビエルは、めがねを、周防の国(現在の山口県)の大名、大内義隆に贈った。これが日本最古のめがねと言われる。当時の人たちは、めがねをかけた宣教師を見て「目が4つある」と驚いたそうだが、江戸時代そして明治時代と、めがねは日本国内に広まっていった。

「増永五左衛門さん」提供:増永眼鏡株式会社

そんな「めがね」と共に歩むことになる人物が、雪深い北陸の国にいた。1871年(明治4年)に、越前の足羽(あすわ)郡(現在の福井県福井市)の農家に生まれた、増永五左衛門(ますなが・ござえもん)さんである。福井は雪が多く、農家といえども、これといった特産物もなかった。そんな時、増永さんは「めがね」の存在に目をつけた。明治の世が進み、近代化と共に、日本では教育がますます盛んになっていく。読書をする人も増えて、「めがね」はなくてはならない道具になると、増永さんは考えた。そして、「めがねフレーム」を、農作業のない冬の時期の手内職で作ることを決めたのだった。

「明治時代『帳場制』での製造風景」提供:増永眼鏡株式会社

めがねの枠を作るといっても、すべてが第一歩からのスタートだった。増永さんは、大阪で、腕のいいめがね職人を探し、福井に移り住んでもらった。そして、有志を募って、その職人の指導の下、1905年(明治38年)から、めがね枠作りを始めた。部品も自前で作った。赤銅を溶かして、型に流し込み、それを金づちで叩いて伸ばし、枠の原型を作った。小さなネジまでも、すべて自分たちで作った。町をあげての「めがね枠」作り、増永さんが導入したのは「帳場制」というシステムだった。

「めがねフレーム製造の道具」提供:一般社団法人福井県眼鏡協会

技術を習得した村の職人たちを「親方」として、その下に「弟子」をつけて“職人グループ”を組織した。親方に注文して、できあがった部品をまとめる。「めがねフレーム」作りは、戦火の影響をあまり受けなかった鯖江市へと広がっていった。この製造スタイルこそ、今も福井県で脈々と受け継がれている“分業制”。まさに町全体が、「めがねフレーム」の大きな工場になっているのだ。

CBCテレビ:画像『写真AC』より「眼鏡をかけた女性」

海外のめがねは、当時、日本人にはなかなかうまくかけることができなかった。西洋人よりも鼻が低いため、鼻からすべり落ちてしまいがちだった。江戸時代にはレンズごと、紐(ひも)によって耳にかけていたほどだった。このため、鼻に固定するための「パッド」と呼ばれる“鼻あて”に工夫を加えた。めがね本体から浮き上がらせるために、その間に「クリングス」と呼ばれる“支える足”を付けた。鼻の低い日本人にも調整しやすい「スネーク型」と呼ばれる湾曲したクリングスを開発し、幅を狭くしたり広くしたり調整することで、めがねフレームはしっかり固定されるようになった。同時に、レンズの角度も自由に調整できるようになった。日本ならではの細やかな工夫だった。

「世界初チタン製めがねフレーム・1981年」提供:一般社団法人福井県眼鏡協会

1911年(明治44年)に開かれた産業博覧会で、増永さんたちが作っためがねフレームは金賞を受賞し、産地として一気にその名が広まった。昭和の時代に入り、世界があっと驚くフレームも開発した。チタンを素材にしためがねフレームである。それまでは鉄や銅を使っていたが、チタンは軽い上、汗による錆(さび)にも強かった。アレルギー性も低く、弾力性もあるフレームができ上った。福井で生まれたチタン製のフレームは「人に優しいフレーム」として、世界中の注目を集めることになった。国産めがねフレームの製造におけるシェアは95%となり、特に福井県鯖江市は「めがねのまち」として誰もが思い浮かべる産地に成長した。

「めがねフレームはじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが、“自慢の鼻あてによってすべり落ちることなく”しっかりと固定されている。

          
【東西南北論説風(428)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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