梱包からおもちゃまで!「プチプチ」の歴史とアイデアあふれる開発の魅力

梱包からおもちゃまで!「プチプチ」の歴史とアイデアあふれる開発の魅力
「∞プチプチⓇAIR」提供:川上産業株式会社

「プチプチ」と言えば、今やほとんどの人が思い浮かべるビニール製のシート。一般的には「気泡緩衝材」と呼ぶのだが、商標登録された「プチプチ」という名前がいかにピッタリなのか、日本での開発の歩みがそれを物語ってくれる。

この気泡緩衝材、もともとは米国で生まれた。インテリア関係の技術者2人が、掃除がしやすいだろうと、壁紙の上に布地模様のビニールをもう1枚重ねて貼ろうとしたら、接着する時に、紙とビニールの間に空気が入り込んでしまい、小さな気泡が沢山できてしまった。壁紙作りは失敗したが、2人はその気泡がクッションの役割を果たすことに気づいた。ならば、気泡を入れたクッション材を作ろうと、1960年(昭和35年)に会社を立ち上げて、製造をスタートした。その新しいクッション材は、米国でコンピューターなどの梱包に使われるようになった。

「創業者・川上聰さん」提供:川上産業株式会社

そんなクッション材に、日本で注目した人がいた。1926年(大正15年)に東京で生まれた川上聰(かわかみ・さとし)さん。技術者だった川上さんは、海外から届く情報の中、米国で新しい気泡緩衝材が開発されたことを知った。「これは日本でも絶対に役立つ商品になる」。そう信じた川上さんは、1968年(昭和43年)に「川上研究所」を創業、米国から届くわずかな情報を頼りに、機械の開発を始めた。

「展示会に出品」提供:川上産業株式会社

シートの上に、凹凸を付けることが最も難しかった。プラスチックであるポリエチレンに熱を加えてシート状にして、それを2枚用意した。1枚は平らなまま、もう1枚に凹凸をつけるのだが、まるで“たこ焼き”の鉄板のようにボコボコが無数についた金型を作った。シートに凹凸ができた瞬間に貼り合わせる。それによって、空気が凹部分に閉じ込められて気泡になった。さらにそれをロール状の大きなシートとして製造できる機械を作り上げた。回転させながら、空気を閉じ込めて、さらに冷却させるという大変な工夫が必要だった。

「展示会に出品」提供:川上産業株式会社

こうして川上さんは、気泡の入ったシートを完成した。「エア・バッグ」と名づけて、発売した。最初は「これは何?」「何のために使うの?」と不思議がられたが、1976年(昭和51年)に「川上産業株式会社」という社名になった頃には、その便利さは広く知られるようになった。1枚のシートに無数の気泡があるため、1つ2つ潰れても、その耐久性は抜群だった。日本が高度成長期によって、物流が活発になる中、「エア・バッグ」は梱包や包装の緩衝材として、どんどん使用されるようになった。また、ガラス製品、陶磁器、そして精密機械など壊れやすいものを守るためにも役に立った。

「エア・バッグ」はお菓子を入れる缶などにも使われた。すると、子どもたちが、使い終わった「エア・バッグ」の気泡を潰して遊ぶようになった。「プチッ」「プチッ」と心地よい音がしたため、いつしか「エア・バッグ」は「プチプチ」と呼ばれるようになった。川上産業は、1994年(平成6年)に、正式に「プチプチⓇ」と名づけて、商標登録した。

「はぁとぷちⓇ」提供:川上産業株式会社

「プチプチⓇ」は、物を運ぶ緩衝材以外にも、様々な使用方法へと進化していく。パソコンなどの包装のために静電気対応させた「静防プチ」。 アルミ袋の裏側に貼り付けて、保温や保冷の効果を持たせた「アルミプチⓇ」。ハート型の気泡をピンクシートに並べた「はぁあとぷちⓇ」。

「∞プチプチⓇAIR」提供:川上産業株式会社

そして、潰す音を楽しむおもちゃ(玩具)にまで進化した。「∞プチプチⓇAIR」は、5センチ四方の正方形ボードの中に、気泡が7~8個。それを潰していると、時々「プチッ」という音とは違う、猫の鳴き声や「ピンポーン」というチャイム音なども登場する、遊び心満載のおもちゃである。

「スパスパⓇ」提供:川上産業株式会社

進化は続く。気泡の形も横から見ると、当初は四角形だったが、現在は台形になった。耐久性を保ちながら、原料やスペースを節約できるようになった。2021年(令和3年)には、はさみやカッターナイフを使わずに、手で真っすぐに切ることができるシートが登場した。その名も「スパスパⓇ」。使いやすさは一気に増して、人気商品となっている。「プチプチⓇ」は100種類以上、同じような緩衝材の国内シェア60%となっている。

「スパスパⓇ」提供:川上産業株式会社

米国生まれの緩衝材を、物を包む、保温する、さらにおもちゃの世界にまで進化させたニッポン。「プチプチはじめて物語」のページからは、日本の文化の歩み、その確かな足音が「プチッ、プチッ」という、心地よい音色と共に聞こえてくるようだ。

          
【東西南北論説風(406)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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