お風呂タイムを幸せに演出!「入浴剤」日本での魅力たっぷり温かい開発史

お風呂タイムを幸せに演出!「入浴剤」日本での魅力たっぷり温かい開発史
「つくば研究所・入浴剤評価室」提供:株式会社バスクリン

いきなりプロ野球の話で恐縮だが、ペナントレース前の各球団のキャンプで、選手にとって嬉しい差し入れが「入浴剤」だそうだ。猛練習の疲れを宿舎の風呂で癒す時に、とても重宝すると聞いたことがある。そんな「入浴剤」の歴史を訪ねる。

入浴する時に、湯に何かを入れるということは、昔から世界各地であった。古代エジプトでは香油(こうゆ)や花びらを入れたり、古代メキシコでは薬草を湯に入れて病気を治したりしたと言う。日本でも、江戸時代に「薬湯」と言って、湯に薬草を入れて皮膚病を治療した。また、端午の節句には「菖蒲湯」、冬至には「柚子湯」などの習慣も生まれた。明治時代の中頃には、自然界で採れた生薬(しょうやく)を配合して、それを布袋に入れてお湯につける商品も登場した。

「創業者・津村重舎さん」提供:株式会社バスクリン

日本で「入浴剤」と歩んだ人がいる。1871年(明治4年)に現在の奈良県で生まれた津村重舎(つむら・じゅうしゃ)さん。母方の実家が薬を扱っていたことから、1893年(明治26年)に東京の日本橋に薬屋を創業した。実家伝来の漢方薬「中将湯(ちゅうじょうとう)」を製造していたが、ある日、社員のひとりから報告を受けた。「中将湯を作った生薬の残りを家に持ち帰って風呂に入れたら、夏は汗疹(あせも)に効き、冬は温泉のように体が温まった」。津村さんは「これを商品にしよう」と思いつく。早速「中将湯」を使い、風呂用の新製品を製造することになった。中将湯の生薬を刻み、紙袋に詰めて、町の銭湯の売り込んだところ、この銭湯は大繁盛。1897年(明治30年)日本で最初の「入浴剤」の誕生だった。
 

「くすり湯中将湯とバスクリン」提供:株式会社バスクリン

しばらくすると、この「中将湯」に客からこんな感想が寄せられた。「体は温まるけれど、夏は湯上りの汗が引かなくて困る」。津村さんは考えた。「風呂上がりの体がスーッとするような入浴剤はできないか」。大学の研究室に相談を持ちかけて、香りと成分を共同で研究した。その結果、爽やかさを出す“香り”には、特に「松の葉」の香りが適していることが分かり、温泉のミネラル成分に混ぜ合わせた。また特殊な色素を配合することで、粉の段階ではオレンジ色だが、湯に入れると蛍光色を発生して“緑色”に変わるという工夫を加えた。香りは爽やか、見た目も鮮やか、夏でも気持ちよく使うことができる「入浴剤」は、1930年(昭和5年)に発売された。ブリキの缶に入れて、150グラムで50銭。現在では4000円という高級品だったが、この新たな入浴剤は、再び銭湯で大人気となった。

「つくば研究所」提供:株式会社バスクリン

津村さんは、その入浴剤に「お風呂で体をきれいにする」という思いを込めて、bath(バス)とclean(クリーン)から「バスクリン」と名づけた。ちなみに、津村さんが創業した薬屋の名前は「津村順天堂」、その後「株式会社ツムラ」に社名を変えた。現在は商品名をつけた「株式会社バスクリン」という会社を独立させて、多彩な入浴剤を作り続けている。

「クールバスクリン1975年」 提供:株式会社バスクリン

昭和30年代に入ると、一戸建ての家や公団住宅が増えて、多くの家庭に風呂場ができた。銭湯から家庭の風呂へ。「誰でも、家庭で、手軽に温泉を」という願いは、時代の波に乗った。「バスクリン」は一時生産が追いつかないほどの大ヒット商品になった。香りも種類が増えて「バスクリンジャスミン」や「バスクリンブーケ」などが登場した。ジャスミンには日本人の好みに合わせて、少し甘い香りも加えた。夏向けの入浴剤として独立させた「クールバスクリン」も1975年(昭和50年)に発売された。全国各地の有名温泉の成分を入れた「日本の名湯シリーズ」も人気になった。「薬湯シリーズ」には保温湯と発汗湯、「クールシリーズ」には、桃やメロン、さらに沖縄特産のシークワーサーなど爽やかさを演出する香りが加わった。プロ野球の選手たちも、好みの入浴剤を選んで、練習後のひとときを楽しんでいることだろう。

「最新のバスクリン商品各種」提供:株式会社バスクリン

お風呂タイムを幸せに演出してくれる入浴剤は、ニッポンでめざましい進化を遂げた。「入浴剤はじめて物語」のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが“湯煙の中でポカポカと”浮かび上がっている。
         
【東西南北論説風(385)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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