★ビートルズが世界を変えた7つの偉業(No.3)楽器と演奏法の新境地を開いたパイオニア

★ビートルズが世界を変えた7つの偉業(No.3)楽器と演奏法の新境地を開いたパイオニア

2020年は、ジョン・レノン生誕80年&没後40年。アルバム『Let It Be』発売50年の年でした。2022年は、ビートルズ・デビュー60年・・・を迎えようとしています。

2021年・・・改めて今、1960年代の音楽、カルチャー、社会の既成概念に果敢にチャレンジし、自由にふるまい、大人たちの常識を変えていった、ビートルズのさまざまな偉業について、記憶をたどり整理してみたいと思います。

ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター・・・いずれも未来を変革する大きなエネルギーを内に秘めた非凡で魅力的な若者たち。4人のチームワークと強烈な個性の化学反応によって、世界はどう変わったのでしょうか?

ロックンロール・バンドの基本型からスタート         

 エレキギター2本、ベースギター、そしてドラムスというロックンロール・バンドの基本的な楽器構成でデビューしたビートルズ。エレキギター2本のうち、ジョンがリズムギターを、ジョージがリードギターを主に演奏し、ベースギターはポールの担当でした。ドラムスはもちろん、リンゴです。初期のビートルズは、「Johnny B. Goode」や「Roll Over Beethoven」など、バンドの原点であるロックンロールの名曲を好んでレパートリーとして演奏していました。ロックンロールを演奏する際の楽器の基本的な役割は、リズムギターがギターの弦を激しくかきならしながらパンチの効いたリズムを刻み、リードギターがイントロや間奏でカッコいいギタープレイをきめ、ドラムスは熱気あふれるスティックさばきで8ビートや16ビートのノリノリのリズムを叩き出し演奏を盛り上げます。ベースギターは重低音で曲のコード進行に添った音をロックンロールのリズムに乗せてボン、ボン、ボン・・・と打ち込んでいくパートで、バンドの中では目立たない地味な存在といえるかもしれません。ビートルズがデビューして間もない1960年代初頭の常識では・・・。

ビートルズは、ロックンロール・バンドを基本としながらも、1962年のレコード・デビュー以降、次々とオリジナル曲を発表して独自の音楽の世界を開拓していきます。4人のメンバーはそれぞれが担当する楽器についても、既成概念を超える自由な演奏で新しい境地を切り開いていきました。

常識破りの“歌うベースライン”

 当時のミュージシャンではほとんど使用されていなかった木目調のバイオリン型ベースを愛用したのがポール。個性的なフォルムのベースギターは、ポールのトレードマーク・シンボルとなっています。また、演奏法でもポールは従来のミュージシャンにはない“歌うベースライン”という独自のスタイルを生み出しました。

 1965年のアルバム『RubberSoul』の頃から、ポールのベース奏法に進化が見られます。コード進行に添った低音をボン、ボン、ボンと打ち込んでいく従来型のベース奏法・・・目だたたない裏方的な演奏法ではなく、メイン・ボーカルとつむぎ合うように“歌うベースライン”によって曲に深みを付加する常識破りな演奏法でした。例えば「Nowhere Man」を聴いてみてください。ポールのベースは単純なリズムではなく、複雑な音階を歌い上げています。ジョン、ポール、ジョージの3人によるコーラスラインとポールのベースラインが絡み合い化学反応を起こして艶やかで印象的な曲に仕上がっています。

また、1966年にシングル盤で発売された「Rain」では、ドラムのリズムとベースラインの掛け合いというユニークな演奏法を試みて世界を驚かせました。ポールの“歌うベースライン”は、ビートルズのその後の楽曲と共に発展を続け、解散直前に発表されたアルバム『Abbey Road』の「Something」では、その巧みさが頂点を極めたのではないでしょうか?ポールが「Something」で奏でる“歌うベースライン”は美しいという表現が最もふさわしいと思います。この曲の重要な構成要素になっています。ポールの既成概念にとらわれないユニークなベース奏法は、ポピュラー音楽の多くのベーシストたちに大きな影響を与えました。

クラシックギターもハイテクニック

筆者撮影:ビートルズの楽器基本構成©CBCテレビ

ギタリストとしての既成概念にとらわれず、いろんな楽器にチャレンジしたのがジョージでした。ビートルズはロックンロール・バンドですから、ジョージが演奏する楽器はエレキギターが基本でした。でも、初期のレパートリーからジョージは積極的にクラシックのガットギターをつま弾いて、情緒あふれる印象的なプレーを披露しています。

いちばん有名なのは「And I love Her」のイントロでジョージが奏でるシンプルなフレーズ、そして間奏の甘い旋律。クラシック・ガットギターの柔らかな響きに魅了されたファンはきっと多いことでしょう。

ビートルズのセカンド・アルバムとしてリリースされた1963年の『With The Beatles』の中に収録されている「Till There Was You」の間奏もジョージがガットギターを弾いていますが、これがまた高度なクラシックギターのテクニックに裏付けられた素晴らしい演奏です。流れるような美しい音階とアクセントとなる和音の絡み合いを見事な指の運びで弾きこなしています。ビートルズは、この「Till There Was You」をBBCラジオに出演した際にもBBCのスタジオで演奏しましたが、その時は、ジョージはクラシックギターを用いずに、エレキギターで演奏しています。その演奏は解散後にリリースされた『The Beatles Live At The BBC』で聴くことができます。間奏も『With The Beatles』の「Till There Was You」とほぼ同じフレーズで弾いていますので、聴き比べてみるのも興味深いですよ。

とんでもない音がイントロから聞こえてきた!

そして1965年。当時のポピュラー音楽界では、イントロや間奏を奏でるメインのリード楽器として誰も使ったことのない楽器を、ジョージがスタジオに持ち込みました。アルバム『Rubber Soul』の中の「Norwegian Wood」でジョージが披露したその楽器は、固い高音がキリキリと耳に突き刺さるように響く弦楽器・・・今まで聞いたことのないエキゾチックな音色・・・インドの民族楽器“シタール”でした。ジョージ自身がインドの音楽家から手ほどきをうけて奏法を習得し演奏していたのです。

これを聴いて衝撃を受けたライバル・グループ、ローリング・ストーンズのギタリストだったブライアン・ジョーンズは、ジョージに連絡をとってシタールの知識を得てさっそく翌年、ストーンズがリリースした新曲「黒くぬれ!(Paint It, Black)」で、シタールを演奏したのです。その後、レッド・ツェッペリンが、イタリア発祥の楽器“マンドリン”をハード・ロックの演奏に取り入れて新たなスタイルを打ち出すなど、エキゾチックな楽器の音色が、当時のロック・ミュージシャンたちのトレンドとなるほどでした。インドの楽器をビートルズの録音スタジオ持ち込んだジョージのユニークで大胆な発想が、ロック音楽の世界にたいへん大きな影響を与えたのでした。

ジョージはギターだけではなく、1960年代にはまだ技術的に発展途上だった“シンセサイザー”にも大いに好奇心を抱いていました。仕事場だったアビーロードの録音スタジオに、ジョージは最新の“シンセサイザー”を持ち込んで実験を繰り返していたといいます。自身が作詞作曲した「Here Comes The Sun」では、シンセサイザーの音が効果的に使われて見事な仕上がりとなりました。ビートルズは、今までにないことをやるのが大好きなバンドです。 

リンゴのリズムがなければビートルズの音楽にならない!

 ライブハウスで演奏している、あるバンドのドラマーさんから聞いた話です。「ぼくたちのバンドはいろんな曲をレパートリーにしていますが、ドラマーとしてはビートルズ・ナンバーを叩く時が一番難しい」のだそうです。つまり、リンゴのドラムのリズムをコピーすることがとても難しいと。

 ブレのない正確なリズムを刻むことがドラマーの基本かもしれませんが、リンゴはその意味では常識破りのドラマー。メトロノームのようにきっちり同じタイミングで機械的に音が出るのではなく、リンゴのドラムは、伝統芸能の鼓の「いよーっポン!」というように“タメ”があるリズムだといわれています。この“タメ”がいったい何秒なのか?何十分の一秒なのか、何百分の一秒なのか?誰にもわかりません。しかし、「この“タメ”のリズムがないとビートルズらしい音楽に聞こえないんですよ」とバンドのドラマーさんが言うのです。ビートルズ・ナンバーをコピーしようとして、バンドの他のメンバーがとても上手に歌い、演奏しても、ドラムのリズムがリンゴっぽく聞こえないと、ビートルズらしくならない・・・不思議なことです。

上手いドラマーとはどのようなドラマーなのか?「リンゴは上手いドラマーとはいえない」と言う評論家もいます。しかし、既成概念ではとらえきれないリンゴのドラムのリズムがあったからこそ、ビートルズの音楽が世界のファンの心を揺さぶり続けたのではないでしょうか?

「Twist And Shout」「She Loves You」「I Feel Fine」「Ticket To Ride」「In My Life」「Yellow Submarine」「Come Together」「Get Back」などなど、リンゴのドラムのリズムが作品の重要な要素になって心の深くに刻まれているビートルズ・ナンバー・・・あなたは何曲思い浮かびますか?

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ビートルズの音楽が常に新鮮さを失わず世界中のファンを魅了し続けてきた理由の一つが、彼らの楽器の選び方とその演奏法にあるのだと思います。従来のポピュラー音楽にはなかった新しい風・・・大胆なチャレンジ・・・ビートルズの最大の魅力です。

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