永田町に飛び交う「解散の噂」と予算編成

永田町に飛び交う「解散の噂」と予算編成

今は自民党総裁選の真っ最中だ。だが、種々の報道でご存知のことと思うが、国会のある永田町では、新総理・総裁の下馬評とともに、新総理・総裁が就任後、すぐに衆議院の解散総選挙に打って出るのではないかという噂が飛び交っている。
解散説の主な根拠は、安倍総理の退陣表明後、政権の評価や内閣支持率が急上昇していることで、与党が有利な今、選挙だ、というもの。投票日は10月25日だ、いや、それでは日程が窮屈すぎるので一週間後の11月1日になるだろう、というあたりが現在の多数説と言えるだろうか。

「解散は総理の専権事項」の意味

そもそも、総理の解散権については、憲法解釈を含め様々な議論がある。ここではそこには立ち入らない。現行憲法下で行われた1952年の、いわゆる抜き打ち解散以降は、総理が解散を決めたら解散・総選挙となっているからだ。だから解散は総理の専権事項などという。

つまり、基本、国会が開いていれば、総理の判断一つで、いつでも解散総選挙はあり得る。国民の政治参加の大きな機会である総選挙報道をしっかりと行わなければならない立場の私達も、いつ解散があってもいいように、これに備えた準備はもちろんしている。

気になることは「予算編成と経済」

ただ、このコロナ禍の真っただ中、さまざまな業種が深刻な経済的影響を受けている中での解散総選挙については、個人的にとても気になっていることが一つある。

仮に解散総選挙が年内にあったとして、それが来年度の政府予算編成と日本経済にどれほどの影響を与えるのかということだ。

予算編成のスケジュール「例年と今回」

最近の政府予算編成作業を簡単に説明すると、まず、前年の6月頃には政府の基本的な考え方、いわゆる骨太の方針が決定する。
これを受けて、各省庁から、主な政策要望と予算額をとりまとめた概算要求が8月末に財務省に出されて実務作業がスタート、12月には財務省の原案がまとまり、さらに大臣間の政治的な折衝も経て、政府予算案が12月中に閣議決定される。
これを翌年1月に招集される通常国会で審議、衆議院と参議院で可決して、新年度4月からの予算執行に間に合わせるというのが通常のスケジュールだ。

ところが今年は、新型コロナウイルス感染拡大への対策を優先させることなどを理由に、骨太方針は7月にずれ込み、概算要求の期限も9月末と、いつもより1カ月延期された。
このように予算編成の日程がすでに1ヶ月窮屈になっている中で、仮に、政府予算案が閣議決定される前に、解散総選挙となれば、さらにこの間、事実上、国の予算編成作業がストップしてしまうことになりかねない。
仮にそうなった場合、予算案決定が遅れることはないのか、また、スケジュール通りに編成できたとしても、実務作業に影響が出て、肝心の中身に影響はないのか、こうしたことで大変な試練に直面している経済に影響は出ないのだろうか。

「越年予算編成」の記憶

思い出すのは1994年度の予算編成だ。このときは、前年の1993年に細川連立内閣が成立、結党以来、はじめて自民党が下野する政権交代があったこともあり、政府予算案の閣議決定は越年、それも遅れに遅れて2月15日となった。
1994年2月は、12日未明に東京で大雪となり、当時、東京駐在記者だった私は、まだ雪の残る中、異例の越年予算折衝の取材活動に駆け回ったことを覚えている。
結局、細川内閣は予算の成立を見ることなく総辞職、これを継いだ羽田内閣が予算を成立させたのは、新年度入りして2カ月たった6月に入ってからだった。
その間は、いわゆるつなぎ予算でしのいだが、当時の日本はいわゆるバブル景気の崩壊からなんとか立ち直ろうとしていた時期にあたり、予算編成の遅れは、当然ながら日本経済にとってマイナスであった。

「解散と予算編成と経済と」問われる新総理の資質

ただ、大きな経済の局面を見ると、当時はバブル崩壊と言っても、今回のコロナ禍のように、経済指標の数字自体が大きくマイナスに落ち込んでいたわけではない。

いま、日本経済が、そして世界経済が、ほとんど経験したことのない厳しい状況にある中で、この時期に総選挙を打って、予算編成の空白をもたらすことが、経済にどれだけの影響を与えるのか。
確かに、与党で総選挙に勝利し、強力に政策を進めることこそが大事、との理屈もあるかも知れない。
だが、経済への影響は、解散を判断するうえで、真剣に考えておくべきポイントの一つだろう。

説明したように、解散は総理の専権事項。永田町には、早期解散説が渦巻いているが、決めるのは総理一人だ。
今、自民党内は、誰が総理・総裁になるかによって、閣僚や自民党役員人事がどうなるのかに注目が集まっている。
だが、新内閣発足後、すぐに解散に踏み切るのか、そうしないのか、これは、新総理・総裁として、人事で自民・与党内をどのように仕切るのかを超え、まさに日本の舵取り役としての新総理の資質を問う、最初の大きな機会となるのではないか。

CBCテレビ 論説室長 横地昭仁

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