揺れるヨーロッパが世界の潮流の行方を左右する~2019新春の考察~

揺れるヨーロッパが世界の潮流の行方を左右する~2019新春の考察~

新しい年が幕を開けた。
2019年は日本にとっては天皇の生前退位を受けて、5月に改元という時代の節目を迎える年になる。そして日本と同じように皇室を持つヨーロッパのある国も大きな岐路にさしかかる。イギリスである。

EU離脱へのジレンマ

イギリスは今年の春にEU(欧州連合)離脱を迎える。岐路と言う表現は少し違っているかもしれない。すでに国民投票によって国民の意思は示されているのだが、別れの手続きは一筋縄ではいかない。イギリス政府とEUとの離脱合意案が議会の反対にあって行き詰まっている。例えば、夫婦が離婚を決めたものの、今後の接し方や親権をめぐって多くのテーマで泥沼の話し合いに入っているといったところだろうか。そんな中、2019年3月29日という別れの日は迫っている。
「英国を世界に対して開かれたグローバルな国にするチャンスだ」
以前取材したイギリスのある外交官はこう語っていた。そしてこう続けた。
「離脱後もEUの一番仲のいい隣人でいたい」
メイ首相は議会を説得し承認を得るために、次の2022年選挙前には保守党党首を辞任することを表明した。すなわち首相を退陣するということだ。一番仲のいい隣人はなかなか定着することがむずかしいのか。

伊勢志摩サミットから3年

3年前に、三重県の伊勢志摩では主要国首脳会議(G7サミット)が開かれた。
参加した7人のリーダーの内、4人がすでにその座にはいない。イギリスのキャメロン首相、アメリカのオバマ大統領、イタリアのレンツィ首相、そしてフランスのオランド大統領である。キャメロン氏に代わったメイ首相であるが、早くもそのゴールを自らで決めてしまった。後任がピンチなのは、ドーバー海峡をはさんだフランスも同じである。

パリが燃えた秋

オランド大統領の後を受けたマクロン大統領を、その経済政策に反発して毎週のように「黄色いベスト」の大がかりなストライキが襲った。パリの観光名所のひとつ「凱旋門」周辺でのデモ隊と治安部隊との衝突はエスカレートの度を増していった。
そんな中、時を同じくして日本では、世界に衝撃を走らせた日産自動車カルロス・ゴーン元会長の逮捕。直後からフランス政府は動きを始めた。在日大使館職員が面会に早々に赴き、マクロン大統領まで日本政府との対話を求めたようだ。一民間企業なのになぜそこまで?
しかし同じようにゴーン氏がトップをつとめるフランスの自動車メーカー「ルノー」の歴史を振り返ると、仏政府が乗り出してくる理由も分かる。

ルノーの歴史をひも解く

大学時代のゼミで「フランスの政治」を選択した。1年かけて研究したテーマは「第一次大戦後のルノー労働問題」だった。
実は1898年に創立されてフランスの自動車トップメーカーになったルノーの過去が今日に結びつく。第一次大戦を乗り越えたルノーだったが、第二次大戦ではドイツの支配下に置かれた。1945年にヴィシーでの亡命政権「自由フランス」を率いて後に大統領にもなるシャルル・ド・ゴール氏によって国有化されるも、ルノー創業者のルイ・ルノー氏は戦時中ドイツに協力したとして獄中死。会社が民間会社として再び戻ってきたのは、半世紀後の1996年のことだった。
完全民営化されたもののルノーの行方を仏政府は無視できないのだろう。今回のゴーン元会長逮捕に対するフランス政府の動きの背景には、自国が直面している経済問題、さらにそれに端を発した危機が密接に関係していることは容易に想像できる。

ドイツでも政権が揺れる

伊勢志摩サミットに参加して今なおリーダーである3人の内のひとり、ドイツのメルケル首相も苦しい政権運営が続く。2018年10月の地方選で敗退し、キリスト教民主同盟の党首の座も譲った。2021年の任期満了での辞任も発表した。
英仏独というヨーロッパのリーダー国のトップたちの厳しい局面に直面し、この内の2人はすでに自らのゴールを明らかにしている。求心力の低下は否定できない。

トランプ政権ますます先鋭化

一方でアメリカではますますトランプ大統領が旗色鮮明にしている。政権を支え、トランプ政権のブレーキ役でもあったマティス国防長官が2月の退任を決めたニュースは、衝撃も持って世界を駆け巡った。
これまでも「米国第一(アメリカ・ファースト)」だった方向性がますます先鋭化する可能性がある。
世界のリーダーシップの座を意識して中国はどう動くのか?そしてロシアの動きも予断を許さない。本来ならば、こうして世界情勢の中でバランスを取るはずのヨーロッパ自体が揺れている中、パワーバランスの行方はますます混沌としている。

7年目に入った安倍政権。
伊勢志摩サミット参加のリーダーのひとりである安倍首相が、この世界潮流のうねりの中で、どんな外交を見せるのか?
その足元には春の統一地方選、夏の参院選と「選挙イヤー」が横たわっている。
2019年、国内では改元に伴う行事が粛々と進む中、国内外の動きに一層目を凝らさねばならないとても大切な新年を迎えた。

【東西南北論説風(78)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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