「南極」は、北極より寒い?宇宙より遠い?~白い大陸が、“現代”の私たちに教えてくれること。

「南極」は、北極より寒い?宇宙より遠い?~白い大陸が、“現代”の私たちに教えてくれること。

 昨年(2020年)の暮れ、南極で新型コロナの感染者が確認された。チリの観測基地でクラスターが発生したのだ。資材を運んできた船が感染者も運んできた…とされる。この感染の大きな意味は、地球に7つある大陸のすべてで新型コロナ感染者が出た…という事実だ。そう、「南極」は大陸なのだ。オーストラリア大陸より広く、日本列島なら30個以上がスッポリだ。
 このニュースで考えた。「南極」は遠くて特別な場所なのか、それとも、いまや意外に近くて普通の場所なのか。というわけで、今回の「ニュースなキーワード」は、「南極」だ。

女子高校生も目指した、あこがれの「南極」

 宇宙飛行士の毛利衛氏は、かつて昭和基地に招かれた際、「宇宙ヘは数分でたどり着いた。だが南極までは何日もかかった。ここは宇宙よりも遠い」という趣旨の話をされたという。
このエピソードがタイトルになったアニメが『宇宙(そら)よりも遠い場所』。女子高校生4人が南極観測隊に同行する…というストーリーで、ファンも多い。リアルな南極観測隊が描かれてもいる。あのニューヨーク・タイムズが、「最も優れたテレビ番組・海外作品部門(2018年)」の1本に選んでいるほどだ。ファンは『よりもい』と略して呼ぶ(なぜかって?ご存じない方は、タイトルをもう一度じっくり見てほしい)。
 いまや人気アニメにも描かれる日本の南極観測隊は、1957年(昭和32年)が第1次。当時、子どもたちは「南極観測隊ごっこ」をして遊んだりしたらしい。やっぱり、あこがれの対象だったのだ。
現在、第62次の観測隊が現地で活動を始めている。彼らを南極に運び、その後、帰国する隊員たちを乗せて日本に向かっているのが、観測・砕氷船『しらせ』。今回の航海は、これまでとはちょっと違う。新型コロナ対策のため無寄港・無補給で、いわば直行直帰の航海に挑んでいる。帰宅途中で、気楽に居酒屋にも立ち寄れなくなったコロナ禍のサラリーマンのような感じだろうか(多分、ちょっと違う)。
 現在、太平洋を北上中の『しらせ』の位置は、国立極地研究所のホームページで確認できる。その1日の移動距離・航跡をみると、南極に近い海ほど、苦労が多いであろうことも想像できる。

古代ギリシャ人は知っていた!?「南の海に未知の大陸がある!」

 昔の人は、「地球は平らだ」と信じていた…と思っているあなた、実は、必ずしもそうではない。たとえば古代ギリシャの知識人は、すでに「地球は丸い、たぶんね」と考えていた。「丸いはずがない」と主張したがったのは、のちの中世キリスト教的な思想である。
 古代ギリシャ人がすごいのは、さらに「それにしても陸地が地球の北に偏りすぎていやしないか。これではバランスが悪かろう」と考えたことだ。そして、「南のほうにも巨大な陸地があるに違いない。それがバランスっていうものではないか」と結論づけた(昔も今も、賢い人はバランスの重要性を理解できる。理解できないのは…まあいい)。そして、そして、そんなまだ見ぬ大陸には、ちゃんと名前がついていた。「テラ・アウストラリス」、ラテン語で「南方の大陸」という意味だ。この「アウストラリス」が、のちの「オーストラリア」の語源でもある。
 ただ、「南極」存在の可能性は古くから予想されていたものの、のちに毛利衛氏も折り紙をつけたほどの「遠い場所」である。予想はできても、実際にはなかなかたどりつけなかった。

なぜ、人類は「南極」を目指したのか?

 南極大陸「発見」の時代…といわれるのは19世紀、1820年以降である。やがて、ノルウェーのアムンセン、イギリスのスコットらが、南極探検で結果を競いあう時代が到来。日本の軍人だった白瀬矗(しらせ・のぶ)が南極にたどり着くのは、明治45年(1912年)のことだ。
 彼らの「探検」のモチベーションのひとつが、「領土的野心」であったことは否定できない。「誰も来たことのないこの辺り、わが国のもんだからね」と、旗を立てたりするわけだ。
 やがて、各国が勝手にそれをやったらマズイだろう…と(先を越された国の焦りもあったには違いないが)、1956年に「南極条約」という取り決めが成立する。この取り決めのポイントは、「南極は、どの国のモノでもない(少なくとも当分の間は…)」「利用するなら、研究とか観測とかだけにしてね。間違っても核実験なんてやったらダメだからね」という内容だ。なかなか意義深い取り決めであった。
 この考え方、最近の「宇宙」や「ワクチン」をめぐる様々な争奪戦にも適用されるべきであろうが、人類は、なかなか学ばないし、都合よく忘れたりもする。

南極と北極、どちらが寒い? さらに、寒くても息が白くならないワケ

 南極も北極も、どちらも十分に寒そうだ。似たような気温だろう…と思いがちだが、実はかなりの差がある。南極の平均気温はマイナス49度。一方の北極はというとマイナス25度。どちらも寒いには違いないが、こうやって並べられると、北極がなんだか暖かく思えてしまう。この気温差の最大の要因は、「海の上」の北極、「陸の上」の南極…ということになるようだ。
 ただ、「南極」では、吐いた息が白くならない。息が白く見えるのは、呼気中の水分が空気中の微粒子を核として水滴になるからだが、人類の営みから隔絶された地ではあまりに空気がキレイで、核になるべき微粒子(ちり・ほこりの類)がほとんど存在していないのだ。

これからの人類にとっての「南極」

 そんな過酷な場所だからこそ、観測の適地ということになる。人類の侵入を拒み、冷たい氷床で覆われた(平均的な厚さが2000メートルを越えている)大陸は、地球誕生時からの自然を閉じ込めたままキープしてきた巨大な「タイムカプセル」でもある。
 たとえば南極では隕石がゴロゴロ見つかる。温度も湿度も低いために風化を免れるうえに、氷床とともに長い年月をかけて斜面をゆっくりと下ってきた隕石が、地形の関係で、特定の場所に集まっていたりする。しかも、あたり一面が白の世界である。黒い隕石は見つけやすい…。隕石は、宇宙の成り立ちを知るための、そして、人類の未来を考えるための、貴重な材料である。
 最近では、過酷な環境に耐えられる住宅の建築実験なども行われている。「南極の自然に耐えられる家」は、住宅メーカーにとってはビジネスチャンスのきっかけでもあるし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などにとっては、将来、宇宙で生活するための実証実験にもなっている。
 あれ、「宇宙」と「南極」。そういう意味では、実は「近い」のかもしれない。

『実はニュースなキーワード』(2)「南極」

【CBCテレビ特別解説委員・石塚元章(いしづか・もとあき)】
 放送記者、編集長、海外支局長、ニュースキャスターなどを経て、現在はTV『ゴゴスマ』(CBC-TBS系)、ラジオ『石塚元章 ニュースマン!!』、『石塚元章の金曜コラム』(CBC)などに出演。「硬いニュースを柔らかく、柔らかい話題も時に硬く」「論説より解説」がモットー。

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