行政サービスはどう変わる?「中核市」になった舟木一夫とつボイノリオの故郷

行政サービスはどう変わる?「中核市」になった舟木一夫とつボイノリオの故郷

歌手・舟木一夫さんの知る人ぞ知る名曲に『ROCK'N ROLLふるさと』がある。出身地である愛知県一宮(いちのみや)市を歌ったもので、明るいメロディと楽しい歌詞が印象に残る。
「俺のふるさと愛知県 濃尾平野のど真ん中」
その一宮市が2021年4月から「中核市」としての歩みをスタートした。舟木さんが「春の風ふわり 蝶の羽ひらり」と歌った春である。

格差をなくすための「中核市」

全国には47の都道府県があり、市町村の数は1718ある。この内「市」は791あって、市町村全体のおよそ半数となっている。最も人口が多い市は神奈川県横浜市で、375万人余り。逆に最も人口が少ない市は北海道の歌志内(うたしない)市、札幌市と旭川市の中間あたりに位置する。こちらは人口3000人余りで、横浜市との間には1000倍以上の大きな差がある。こうした「市」の間の格差によって、行政サービスに差が出ることのないようにと、大きな市はランクを上げて都道府県の仕事を引き受ける制度が作られた。それが「政令指定都市」「中核市」そして「特例市」である。ただし「特例市」は2015年度の制度が廃止されたので、現在は「政令指定都市」と「中核市」の2種類のみとなっている。

一宮市は市制100周年の新生

「政令指定都市」は人口50万人以上が条件で現在20市、「中核市」はそれに準ずる位置づけで人口20万人以上が条件、四半世紀前の1996年4月にスタートして、当初は12市だったが、2021年3月の時点で60市まで増えた。
東海3県では、愛知県名古屋市が「政令指定都市」であり、「中核市」には、愛知県豊田市、岡崎市、豊橋市、岐阜県岐阜市が名を連ねる。そこに新たに加わったのが愛知県一宮市だった。長野県松本市も同時に「中核市」になり、合わせて62に「中核市」が増えたことになる。人口38万人余り、古くは繊維の町として知られてきた一宮市は、2021年9月に市制100周年を迎える。記念の年は“新たな誕生”の節目と重なる。

「中核市」のメリットとは?

『写真AC』より138タワーから見る岐阜方面の風景

「中核市」になると何が変わるのか?
都道府県が行ってきた仕事の一部を請け負うことになり、その数はおよそ2000とも言われる。メリットは行政サービスの“スピード”と“細やかさ”、一宮市も市民に対し「ここが変わる!」と、1.手続きが早くなる 2.窓口がひとつで便利になる 3.新しい取り組みが充実する この3点をアピールしてきた。
具体的には、保育所などの許認可や監督指導、家庭や事業者のごみについて不法投棄や不適切な保管の防止指導、市立の小中学校教職員に対する独自の研修などが可能になる。
身体障害者手帳についても2か月ほどかかっていた交付期間が3週間ほどに短縮される。まさに“スピード”と“細やかさ”だ。

保健所の新たな機能に注目

最も大きな変化は、保健所の仕事であろう。これまでに愛知県管轄の「一宮保健所」が一宮市と隣接する稲沢市を担当していたが、新たに「一宮市保健所」として、一宮市のみを管轄することになる。愛知県から移管された2800余りの業務の内、およそ半数が保健所関連であることからも、その重要性が理解できる。獣医師、薬剤師、そして保健師などの専門職も新たに採用された。こうした人件費を含めて、歳出は13億円ほど膨らむが、一宮市役所の担当者によると、国からの交付税が増えるため、試算ではほぼ同額になって市の負担はなしと見込まれるそうだ。
課題として担当者が挙げたのは「実務面」、これまでの業務に加えて県が対応してきていた業務も加わるので、まずは走りながら融合を進めるとのことだった。

新型コロナ禍を越えて

中核市としての新たなスタート、目の前にある大きな課題は新型コロナウイルス対応となる。「中核市」をめざして3年余り前には、この脅威は目の前にはなかった。独立した保健所を中心に、これまで愛知県が担当してきた感染予防対策や感染者の搬送なども一宮市独自で進めなければならない。
財政面での負担が増える可能性もある。一方で、国などからの新型コロナ情報も市に直接入ることになり、市単独での陽性率やPCR検査数も把握できるようになった。担当者は「保健所だけでなく、市役所総動員で対応にあたる」と話す。新生「中核市」として実力が問われる最初の試金石である。

名古屋市との交通アクセスも便利な愛知県一宮市。舟木一夫さんと共に、ラジオパーソナリティとして人気のつボイノリオさんの出身地でもある尾張の町が、101年目に向けて新たな姿を内外に見せていくことができるかどうか。その活性化こそが「中核市」になったことのメインテーマであり、そのためには市民への丁寧なフォローも欠かせない。
ふるさとが踊るロックンロール(ROCK'N ROLL)は始まったばかりである。

【東西南北論説風(219) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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