「腕を振って!」ドラゴンズ大野雄大を支えた、幼なじみとの原点

「腕を振って!」ドラゴンズ大野雄大を支えた、幼なじみとの原点

「幼なじみの彼がプロへ送り出した第一号。その実感は、ありましたね」

金曜日に投げる男としての宿命を背負いながら、前回7月31日、今季初勝利を挙げた中日ドラゴンズ大野雄大投手の言葉だ。
今季の開幕投手を務めたことにより、石川、大瀬良、菅野らという顔ぶれと投げ合う巡りあわせになり、なにより手痛い本塁打を食らうことで、自身が勝ち星を掴むことができずにいた。

そんな中での前回、先発で投げ合った相手は、スワローズドラフト2位ルーキー、吉田大喜投手だった。

大野自身はこう語る。

「決して同じピッチャーと対戦するわけではないので、そこまで相手を意識はしません。ただ、先に失点しないことだけは、気を付けます」

しかし大野は初回、二番の塩見にいきなり先制本塁打を浴び、4回には村上に、打たれた瞬間それと分かる特大2点本塁打を深い右中間へ運ばれた。

「今日もか…、また手痛い本塁打で」の空気がナゴヤドーム内に漂い始めたが、この日は違う。

原点が支えた勝利

原点が大野を支えた。それは、イニング間のキャッチボール、投球練習から、『しっかりと腕だけは、振って!』の継続だった。かつて、貴重な規定投球練習で、わざとワンバウンドを投げて、腕の振りを確認したほどの男が、原点を貫いた。

味方打線も、大野の姿に奮起し、中盤に勝ち越し。8回終了時には、与田監督が大野の下に歩み寄り、交代も含めた打診があったそうだ。しかし、大野の返答は、これまでとは違う、「まだ行けます」と続投志願。自らの左腕で、何が何でも白星をと128球の力投は、二ケタ奪三振でのチーム初完投をもたらせた。

そして、翌日。改めての実感から出た言葉が、冒頭のひと言だ。

「投げ合ったのは、日体大出身の新人、吉田投手。あのタケが、初めてスカウトして、丸々4年間指導して、プロへ送り出した第一号、初めての選手だったんですよね。正直、投げているときは頭に無かったですが、タケとはずっと長い縁なので」

大野雄大の幼なじみ

タケとは、ドラゴンズOBで、現日体大野球部投手コーチの辻孟彦さん。高木守道政権下の2012年に入団、同期は高橋周平、田島慎二、西川健太郎ら。辻投手は一軍での先発も経験し、3年間在籍した。その後、母校の大学院で学び、アマチュア指導者の資格も取得、2015年から野球部コーチを務め、古城監督の下、大学日本一に輝き、西武の松本、千葉ロッテの東妻ら、毎年のようにドラフト上位でプロ選手を輩出している。

その辻さんの思いは格別だ。

「ユウダイさんは、ひとつ先輩ですが、幼なじみといいますか、京都で、砂川小学・藤森中学・京都外大西高、そして、プロのドラゴンズでも、ずっと一緒でかわいがっていただいています。本当に有難い存在。キャッチボールできるほど近所といったら言い過ぎですが、間近で教わりました。そして、ドラゴンズ時代は、山本昌さんの緻密な調整方法や、川上憲伸さんが貫くキャッチボールの大切さを学びました」

辻さんは、日体大での指導者としての信頼厚く、“100人の選手がいたら100通り”の練習方法があるはず、その上で、指導者が、伸びない練習を見極めることの大切さを体現している。また、自身のケガの経験を活かし、“良い選手ほど、ケガ明けに成長している”と力説。現にルーキー吉田自身も大学一年で公式戦デビューしたものの、直後のケガを克服し、ドラフト2位指名を受けるまでに。

「腕を振る」原点

辻さんは続ける。

「吉田は、まだプロで初めてのことばかりで、彼のパフォーマンスを出し切れていません。彼は大学入学時も環境に慣れるまでに時間はかかりました。イイ意味で、とても普通の子ですから」

「普通じゃないのは、ユウダイさん。まず、プロとして投げ合えたことが光栄。何より、ユウダイさんのボールが素晴らしかった。腕を振りまくって」

そう、大野が自ら初勝利をもたらしたのは、『腕を振って!』の原点。
大野と辻さんは、今でも、年末年始に京都へ帰省すると、自主トレがてらキャッチボールをするのが恒例だという。
それほどのご近所、「息止めてでも彼の家に行けますよ」と冗談めかすほど幼なじみの関係が掴んだ勝ち星であった。

さあ、次に求められるのは、続けてチームが勝つこと。そのために、8月7日の今晩も、エースがジャイアンツ戦のマウンドに向かう。燃えよ、ドラゴンズ!

【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」水曜(午後4時放送)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

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