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解説者の真髄とは?ドラゴンズOB吉見一起さんの洞察力・言葉力そして野球愛

解説者の真髄とは?ドラゴンズOB吉見一起さんの洞察力・言葉力そして野球愛
論説室コラム

解説者の真髄とは?ドラゴンズOB吉見一起さんの洞察力・言葉力そして野球愛

 2020年12月10日(木) 15:00
北辻 利寿
北辻 利寿

中日ドラゴンズ2000年代からの黄金期にエースとして活躍し、今季限りでユニホームを脱いだ吉見一起さんが、CBC野球解説者として“新たなマウンド”に立つ。スーツ姿で放送マイクに向き合う吉見さんの“語り”にドラゴンズファンの期待は高まっている。

野村、江川、落合、名解説者かく語りき

テレビやラジオのプロ野球中継には、これまでも数多くの名だたる解説者がいた。
ドラゴンズOBでは、人情あふれる名調子だった杉浦清さん、短い言葉で鋭く評価する加藤進さんが好きだった。1970年代のことである。ドラゴンズを中心にプロ野球を応援する日々の中、数え切れない人の野球解説を聴いてきた。
名解説者も数多い。野村克也さんの「ぼやき」と称されながらもあまりにも深い分析にうなずき、江川卓さんの卓越した野球理論にも驚いた。権藤博さんの解説の切れ味には聴いているこちらがヒリヒリする。監督として吉見投手を重用してドラゴンズの黄金期を築いた落合博満さんには、解説で語ることが次々とゲームの中で当たってしまうのでいつも舌を巻く。
最近では、立浪和義さんのドラゴンズに対する厳しくも愛あふれる解説、そして川上憲伸さんと井端弘和さんの“同期コンビ”による絶妙のダブル解説など、昔も今も多くの野球ファンは名解説に酔いしれる。

吉見さんの「洞察力」

新たにこうしたメンバーの仲間入りをする吉見一起さん、「野球解説者」としての特性を3つ備えていると思う。
1つ目は「洞察力」である。
吉見投手が15年間の現役時代で積み重ねた勝ち星は90勝、通算の勝ち越し数34を記録した根底にあったのは、その完成されたマウンドさばきだった。「精密機械」と称されたピッチングは、絶妙のコントロールだけによるものではない。打者との間合い、相手ベンチの動き、味方野手陣のポジショニングと力量、さらに球場全体の空気感、こうしたすべてを察知して、一球一球を組み立てていたと思われる。
そんな「洞察力」は、ゲームの解説をする上で欠かすことができない資質である。

「言葉力」を持つ吉見さん

「サンデードラゴンズ」より吉見一起さん©CBCテレビ

2つ目は「言葉力」である。
引退発表の際に当コラムで書いたように「言葉を持っている」選手だった。ヒーローインタビューでは、自分の投球について冷静に分析すると共に、時にチーム全体を俯瞰しての感想を語った。週1回ペースで登板するローテーション投手ながら、まるで毎試合グラウンドに立っているかのようにドラゴンズ全体を見つめ、そしてそれを言葉にした。
引退会見で自らの野球人生をふり返って口にした「てっぺんも底辺も見られた」という言葉は、15年の現役生活をひと言で見事に言い表していたと思う。吉見さんが備えている「言葉力」は、これから野球解説の舞台でさらに磨かれることだろう。

その解説に1つだけ注文を・・・

ここで大変僭越なのだが、野球ファンのひとりとして「解説者・吉見一起さん」にお願いしたいことがある。それは選手へのインタビューや対談など放送内での言葉遣いである。馴れ馴れしい言葉は使ってほしくない。プロ野球解説の仕事は、その大半を選手OBが務めていて、解説者によっては、現役時代のつながりから選手のことをファーストネームで読んだり、“ため口”で質問したりする。しかし、聴いている側としては違和感を覚えてしまう。
ドラゴンズで監督もつとめた山田久志さんは、一緒に解説する相手が自分の監督時代に使った選手であっても、スタジオゲストがドラフト会議で指名された直後の高校生であっても、名前を「さん」付けで呼び、丁寧語で質問する。1軍選手であれ2軍選手であれ、そしてルーキーであれ、「ユニホームを着てプレーする選手」こそ、最も“リスペクト(敬意)”されるべき存在だからだ。一流の解説者は、その一線をわきまえているように思う。
吉見さんにはまったく余計な心配だと理解した上で、あえて解説者デビューへの注文とさせていただく。お許しいただきたい。

野球「愛」あふれる吉見解説

最後の3つ目は「愛」である。
ナゴヤドームでの引退試合のスピーチで、多くの人たちへの感謝の言葉を語った吉見さん、そこには沢山の「愛」があふれていた。特に野球に対する愛は強い。いつかは指導者としてドラゴンズに戻りたいと言う吉見さんは、CBCの野球解説者の仕事と共に、少年野球はじめ様々なステージで、野球の指導をしていきたいという希望を持っている。そこには、自らの人生を支え、そしてそれを彩ってくれた野球への愛があるからだ。
野球解説の仕事によって、ドラゴンズやプロ野球を少し離れたところから見ることは、将来の指導者として大きな財産になるだろうし、また野球を教えることは同時に解説の仕事にも大いに役に立つことだろう。吉見さんの新たなフル回転がいよいよ始まる。

ドラゴンズは、来たる2021年シーズン、球団創設85周年を迎える。そして背番号「19」を背負って竜のマウンドを担ってきた吉見一起さんは、プロ野球解説者として1年目を迎える。根尾昂選手や石川昂弥選手ら若竜たちの新鮮な情報も届けられることだろう。その2つの渦が相乗効果を巻き起こし、ドラゴンズが10年ぶり優勝の青空へ昇ってくれれば、これほど嬉しいことはない。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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