“新しい波”に乗れなかったチーム~ドラゴンズ2020総括コラム(後編)

“新しい波”に乗れなかったチーム~ドラゴンズ2020総括コラム(後編)

「昇竜復活」へ確かな一歩となるAクラスをつかんだ2020年の中日ドラゴンズ。大野雄大のエース道、リリーフ陣の活躍、そして待望の正捕手誕生などに加え、数々の個人タイトルも獲得した。しかし勝ち負けの乱高下は激しく、優勝した讀賣ジャイアンツとの差は大きかった。竜打線を勢いづかせる待望の“新しい波”は残念ながら登場しなかった。
(敬称略)

変わらない打線の顔ぶれ

開幕前ドラゴンズについての下馬評は、多くの野球評論家の中でも高かった。球団OB以外にも優勝を予想する声もあった。新年のタイミングで与田剛監督が「スタメン7人までは顔が浮かぶ」と語ったインタビューがスポーツ紙に掲載されたが、前年2019年シーズンは打撃成績10位に、ダヤン・ビシエド、大島洋平、高橋周平そして阿部寿樹の4人も入るなど、たしかに打線は近年なかったほどに整い始めていた。しかし、優勝を目指すために、もうひとつどうしても必要なものは「チームに勢いをつける起爆剤」すなわち“新戦力”だった。長年のBクラスに“慣れてしまっている”チームの“負け癖”を振り払う新しい勢い。例えばダヤン・ビシエドから4番の座を奪うような若きスラッガー。例えば外野の一角でレギュラーとなる若き野手。若手がローテーションを担った投手陣に比べて、残念ながら打線には、チームの上昇に勢いをつける新たな戦力は定着しなかった。

波乗りが下手なサーファー?

それでも“新しい波”は度々押し寄せてきていた。
ドラフト1位の高卒ルーキー石川昂弥はプロ初スタメン初打席を見事なツーベースによるプロ初安打で飾った。同い年のルーキー岡林勇希もほぼ同じ時期に1軍に昇格し、非凡なバットコントロールと堅実な外野守備を見せた。東京六大学野球の三冠王ルーキー郡司裕也は、正捕手が決まっていない中で開幕1軍を勝ち取った。同じキャッチャー、日本プロ野球では実に29年ぶりの外国人捕手スタメン出場を果たしたアリエル・マルティネスは、その真摯なプレーとパワフルな打撃で全国的な注目を集めた。
しかし、どの選手もペナント奪還への上昇気流を巻き起こすには至らなかった。継続して起用されることがなく、出場機会は次第に少なくなった。しばらく経つと先発スタメンはシーズン前に与田監督が語った「顔が浮かぶ」従来のメンバーに戻ってしまった。
そんな中、全国注目のドラフト1位入団から2年目を迎えた根尾昂という波が、真夏のドラゴンズに打ち寄せた。

ナゴヤドームで根尾が見たい!

七夕の夜、野手を使い果たして「投手の代打に投手」を送った采配が批判の的となったが、それ以上にショックだったのは、8月7日本拠地ナゴヤドームの讀賣ジャイアンツ戦だった。その3日前に今季初の1軍昇格をはたした根尾昂は、横浜スタジアム3連戦でスタメンに起用された。横浜でプロ初ヒットは打てなかった。そして迎えたジャイアンツ戦の先発メンバーに「根尾昂」の名前はなかった。正直、目と耳を疑った。
お盆休みに入る週末、相手は宿敵ジャイアンツ。長年の竜党は、33年前の1987年ほぼ同じ時期に高卒ルーキー近藤真一(現・真市)が巨人相手に達成したプロ初登板初先発でのノーヒットノーラン達成という“真夏の夜の夢”を思い出したはずだ。
根尾は横浜で3試合ともスタメン、しかし名古屋ではスタメン落ち。先発メンバーをコールする場内アナウンスの中、ナゴヤドームには応援に駆けつけたファンからの失望のため息が漏れた。与田監督が自らの右手でクジを引き当てた“高校球界のスーパースター”、ファンの思いも別格の選手である。なぜ「名古屋飛ばし」なのか。納得できない“真夏の夜の悪夢”だった。

ファンも巻き込むワクワク野球を!

監督そしてベンチの采配が波によって勢いに乗せていくのは、グラウンドで戦う選手たちだけではない。多くの球団スタッフ、本拠地球場でゲームを支える人たち、そして声援を送り続けるドラゴンズファン、すべてその対象であろう。
チームを包むウェーブの熱さが周囲に大きく広がれば広がるほど、それは選手たちへのエールになる。2020年は新型コロナ感染防止の対策によって、シーズンを通して観客の入場制限が続いた。当初5000人限定で始まった観戦規制も1万7000人まで増えていったが、他の球場と比較して、ナゴヤドームのチケットが売れ残るケースは多かった。堅実なお土地柄ゆえ、感染リスクに対して慎重だったということもあろうが、そればかりではないだろう。空席の理由のひとつは、ファンをも“波に乗せる”そんな魅力が足りなかったからではないだろうか。

ドラフト会議では、高校球界ナンバーワン投手の呼び声高い地元・中京大中京高校の高橋宏斗投手の獲得に成功した。吉見一起が引退、大野雄大がFA宣言せずに残留、そのドラゴンズ投手陣にまたも“新しい波”がやって来る。
Aクラス復帰をめざしたシーズン最終盤の闘いはファンを熱くさせた。球団創設85周年を迎える2021年シーズンこそ、ワクワクする気持ちを熟成させて大きく弾けさせる、そんな竜の新しい“波乗り”に期待したい。そして10年ぶりのペナント奪還へ!

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】 

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