中日・小笠原の現在地。球団史上最年少開幕投手を支えた男

中日・小笠原の現在地。球団史上最年少開幕投手を支えた男

ちょうど1年前、小笠原慎之介は投手陣の先頭を走っていた。

2018年3月22日。ナゴヤドームで練習が終わると、左腕は森繁和前監督に呼ばれた。

「するのか?しないのか?」「何をですか?」「開幕だよ」「やります!」「メディアにはどうする?黙っておくか?」「言って頂いて結構です」「分かった」

森前監督らしい伝え方だ。もちろん、前から指揮官は小笠原に大役を任せるつもりだった。その上で本人の意思や報道陣への対応などを最終確認。ぶっきらぼうな口調だが、20歳に過度なプレッシャーを与えまいとする親心が見える。

小笠原はキャンプから猛アピールした。オープン戦も4試合2勝0敗。防御率1.35。文句なしの成績で球団史上最年少開幕投手の座を掴んだ。

「今までの野球人生で最も緊張しました。やはり特別なマウンドでした」

開幕戦。真っ赤に染まるマツダスタジアムで小笠原は果敢に腕を振った。最速は148キロ。

「今思えば、あの日のストレートが去年一番良かったです」

結局、6回5失点で敗戦投手。この日に全てを合わせてきた。オフからフルスロットルで飛ばしてきた。その反動が左肩に来ていた。しかし、本人はまだ気付かない。

「エースと対戦し続けるのは百も承知。ただ、勝てば乗れると思っていました」

「欲」が「不安」を上回る

4月6日の阪神戦は7回2失点で勝利。4月13日のDeNA戦は6回3失点で勝ち負け付かず。その翌日、異変に気付いた。

「キャッチボールをした瞬間、ガクンと肩が抜ける感じがあったんです」

しかし、小笠原は勝ちに飢えていた。危険なことに「欲」が「不安」を上回っていた。

「多少の違和感はみんな持っているもの。とにかくあの時は試合を作って、チームを乗せる。それだけを考えていました」

使命感が体を突き動かした。ただ、結果は裏腹。4月28日のDeNA戦から4連敗。肩のひずみは増していく。

「インピンジメント症候群でした。胸を張ってトップに入った瞬間に痛い。肩の裏側の小円筋や棘下筋が硬くなっていたんです。ただ、投げられない状態ではありませんでした」

小笠原は悩んだ。まだ、行ける。でも、無理はまずい。そして、あの男のもとに向かった。

「親身になってアドバイスして頂きました。病院や治療院を紹介してもらい、ケアの仕方、中6日の調整方法も教えてもらいました。すると、どんどん状態が上向いたんです。本当に松坂(大輔)さんには感謝しています」

まず、肩への負担を減らすため、キャッチボールの距離を短くした。また、登板前々日の投球練習も強度を落とした。全ては本番に100%を出すためだ。その結果、見事にV字回復。7月は白星が続き、ついに球界NO1投手に勝った。

「菅野(智之)さんと投げ合って完封できたのは自信になりました」

再び振り出しへ

好事魔多し。また、肩が痛んだ。

「8月に病院に行くと、肩に水が溜まっていて、内出血もありました。肘も検査すると、遊離軟骨が見つかり、そのまま手術。半年でどん底まで落ちました」

小笠原は振り出しに戻った。そこから開幕投手ではなく、復活というモチベーションで一歩ずつ前進。地道なリハビリが続いた。

「2月上旬には兆しが見えたんです。肘はすっかり完治して、遠投も70mまでこなせました」

しかし、躓く。それは2月中旬、キャンプ2回目のブルペンに入った時だった。

「確か、40球目です。少し力を入れて投げたら、またガクンと・・・」

1週間、ノースローとなった。

「でも、キャンプ終盤にまた投げられるようになりました。名古屋に帰ってきて、今は20mのキャッチボール。回復は60%です。痛みはなく、怖さがある。それを払拭するための毎日です」

今の気持ちを聞いた。

強さがにじみ出る、松坂の後ろ姿

「めっちゃ悔しいです。去年の今頃は開幕投手を見据えていたのに、今は投手陣の下の下。ただ、今できることに集中しています。だって」

小笠原は一拍置いた。

「松坂さんを見ていたら、僕なんて」

ソフトバンク時代に3年間も苦しんだ右腕は去年、見事に返り咲いた。しかし、今年の沖縄キャンプで右肩を負傷。今は黙々とリハビリに励んでいる。

「松坂さんの後ろ姿には強さがにじみ出ているんです。投げられない期間、3年ですよ。そこからやっとの思いで復活して、またゼロ。僕だったら、自暴自棄になってもおかしくない。でも、何も言わず、ひたすらメニューをこなしている。それに比べれば、僕なんて。だから、やれることをやるだけです」

平成の怪物はチームに有形無形の効果をもたらしている。

去年、小笠原は先頭を走っていた。しかし、現在地は最後尾。ただ、横には松坂がいる。2人とも開幕には間に合わない。それなら、今年はまくろうではないか。シーズンは意外と長い。

背番号11と18が復活する時、竜はきっと加速する。

【CBCアナウンサー若狭敬一
CBCテレビ「サンデードラゴンズ(毎週日曜午後0時54分放送)」、CBCテレビ「スポーツLIVE High FIVE!!(毎週日曜午後1時24分放送)」、CBCラジオ「若狭敬一のスポ音(毎週土曜午後0時20分放送)」、CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週金曜午後6時放送)ほか、テレビやラジオのスポーツ中継などを担当】

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