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「監督・落合博満」の魅力と真髄とは?読書の秋“落合本”3冊からひも解いてみた

「監督・落合博満」の魅力と真髄とは?読書の秋“落合本”3冊からひも解いてみた
論説室コラム

「監督・落合博満」の魅力と真髄とは?読書の秋“落合本”3冊からひも解いてみた

 2021年9月24日(金) 16:16
北辻 利寿
北辻 利寿
筆者撮影:「落合博満論」©集英社「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」©文藝春秋

2011年シーズンオフ、落合博満さんが監督だった中日ドラゴンズのユニホームを脱いで、ちょうど10年目の秋となった。今なおプロ野球ファンの間に待望論が根強い「落合監督」の魅力とは?

落合監督を追った8年間

注目の本が出版された。『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋・2021年発行)、スポーツ紙のプロ野球担当記者として2004年シーズンから8年間の落合政権に密着した鈴木忠平さんによるノンフィクションである。『週刊文春』にシリーズで連載されていた時、毎週読むことが待ち遠しかった。落合さんがドラゴンズの監督に就く時から始まり、8年間に何をしたか、そして監督を去る時に何を語ったか、“その場に居た”取材記者ならではのヒリヒリするような臨場感と、選手・スカウト・フロントら12人に対する取材と証言によって浮き彫りにされる。吹く風、夜空の星、球場の風景など、折々の季節について繊細な描写も、同じように文章を書く人間として心からの敬意を表したい筆力だ。

監督としての愛と冷徹

「嫌われた監督」という表題ながら、描かれている落合監督は本の中で、決して嫌われてばかりではない多くの顔を見せている。肩を壊していた川崎憲次郎投手を、新監督として初の開幕戦で先発させたことは今もファンの語り草だが、その川崎投手にユニホームを脱ぐ決意をさせるまでの下り、ラスト登板を終えた川崎投手が泣きながらベンチの落合監督に抱きつくのである。その一方で、多くの選手、コーチ、スタッフに球団を去ることを監督自ら通告している。絶対的なレギュラーだった立浪和義選手からサードのポジションを森野将彦選手に替える時、一塁側ベンチの左端に毎試合座りながら、三遊間を抜かれる打球が年々増えていることを、その理由として挙げる。その冷静な観察眼。これは実際に私自身も取材を通して痛感したことだが、落合博満という野球人は「見る」のではなく「視る」、まるで透視するがごとく、周りの人間と相対していた印象だった。落合さんは8年間の監督時代に、4度のリーグ優勝そしてチーム53年ぶりの日本一という“結果”をドラゴンズの球団史に残した。

直木賞作家の落合愛

筆者撮影:「落合博満論」©集英社

「もう一度、落合野球を見たい」との主張は、直木賞作家ねじめ正一さんが書いた『落合博満論』(集英社・2021年発行)。ミスター・ジャイアンツ長嶋茂雄さんの大ファンであり、プロ野球通でもあるねじめさんは、1994年シーズンから落合選手が長嶋巨人に加わったことをきっかけに、その魅力に魅了される。ねじめさんは、まだドラゴンズの監督になる前、在野にある落合さんに問う。
「落合さんが監督だったら、コーチを選ぶときは人柄で選ぶ?」
「私なら野球を知っている人を選びますね」
対談をしたのは東京の鰻屋。ねじめさんの分までうな重を食べ旺盛な食欲を見せた落合さんは、見送りに出た鰻屋の主人に自分から握手を求めて、そして言った。
「いい手をしてるねえ」
詩人でもあるねじめさんは、そんな落合さんを「ホヤ(海鞘)」に例えて、こう表す。
「食べる時には勇気がいる。だが、一度口にすると、その歯ごたえ、奥深い苦み、滋味深いおいしさのとりこになる」

落合こそ「野球の目利き」

ドラゴンズで選手とコーチもつとめた川相昌弘さんは、本の中でのねじめさんとの対談で、落合監督が選手に取り組ませた練習について「とにかく同じ動作、反復練習をして体に覚えさせる、それが野球の原点」と分析しながら、こう語っている。
「その時間がちょっと半端じゃない」
守備ならずっと守備、バッティングならずっとバッティング、ひとつのことに費やす時間が長かったそうだ。きっと落合監督は土にまみれる選手たちをじっと見つめていたはずだ。
ねじめさんは落合博満さんを「野球の目利き」と称して、こうラブコールを送っている。
「天高く 落合野球 降ってこい」

落合自らが語る「指導者とは?」

3冊目は落合博満さん自らの著書『戦士の食卓』(岩波書店・2021年発行)。前作『戦士の休息』では大好きな映画について、その豊富な知識によって生き生きと描いた落合さんが今度は“食”について書いた本である。随所に最愛の妻・信子夫人が登場し、落合家の食卓について双方向でやり取りする“夫婦会話”は絶妙である。一流のプロ野球人によるグルメ本というのも珍しい。
そんな本の中で、落合さんが若者の育成について「組織論」を例に語っている下りが興味深い。現在どの位置まで成長しているのか、その取り組み方は正しいのか、次の課題は何なのかを管理職や上司は教えてやらねばならないと指摘した上で、プロ野球に話を転じる。
「プロ野球で勝てないチームを見ていると、そうやって若手に自身の置かれている位置を教え、次のステップに導いてやれる指導者がいない。選手のほうも自分の進んでいる道が本当に正しいのか、わからなくて不安で仕方ない。ゆえにチーム力は上がらない」
ドラゴンズは2020年シーズンで3位になったものの、長くBクラスでの低迷が続いた。
あらためて噛みしめる落合語録が、ファンにとっても重い。

落合野球の真髄には「観察眼」がある。揺るぎない「信念」がそれを頑強に構築する。そしてその中にたしかに存在する「人間愛」。落合博満という“地層”は幾重にも重なって、どの深さに触れるかによって、まったく違った顔を見せるのだと思う。さて、ねじめ正一さんの見果てぬ夢はかなうのだろうか。ユニホームを脱いで10年目の秋である。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

<引用>
・鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋・2021年)
・ねじめ正一『落合博満論』(集英社・2021年)
・落合博満『戦士の食卓』(岩波書店・2021年)

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